「……っ」
俺は何も答えなかった。言葉にするのが、なぜか照れくさかった。
いつからだろうか。しずくのことが、ただの幼なじみではなく、特別な存在になったのは。
あいつが一生懸命お菓子を作っているときの、あの真剣な眼差し。
俺が作ったお菓子を美味しいと言ってくれたときの、無邪気な笑顔。
そして、誰かを助けようと、とっさに怪力を発揮する、その優しい心。
俺にとって、しずくの怪力は決して「怪物」なんかじゃなかった。むしろ、あいつの優しさと強さの象徴のように見えていた。
マラソン大会の日、たった一人でゴールゲートを支えて立ち尽くすしずくを見たとき、俺の心臓は張り裂けそうだった。
あいつがどれほど傷ついているか、痛いほど伝わってきたからだ。
しずくが怪力を隠そうとする様子を、俺はいつもそばで見ていた。
重い物を運ぼうとして、うっかり壊しそうになって焦るしずく。
周りの視線を気にして、いつも少しだけ体を縮こませているしずく。
そんなあいつの姿を見るたびに、俺の胸は締めつけられた。
「しずくの笑顔を、もう一度見たい。あの明るくて、お菓子作りが大好きな、本来のしずくに戻ってほしい」
俺の心には、これまで秘めていたしずくへの強い想いが溢れだす。
その想いが、ついに俺を突き動かした──。



