昼休み。教室の自分の席に座り、俺はぽっかり空いた、しずくの席をじっと見つめていた。
机の上に置かれたままの、家庭科の授業で使った教科書。
調理実習のあの日、タルト生地をこねるしずくの手に、思わず自分の手を重ねたときの、あのひんやりとした柔らかな感触が蘇る。
「おい、湊斗。どうした? 月森さん、最近ずっと学校休んでるけど……もしかして、心配してるのか?」
俺と同じサッカー部で、隣の席の健太が、声をかけてきた。
「ああ、まあな」
俺は短く答える。健太は察したように、それ以上は何も言わなかった。
実は俺は、しずくの怪力にはずっと前から薄々気づいていた。
あれは、俺がまだ小学校に上がる前のこと。
家の近くの公園で遊んでいたとき、地面にしっかり固定されていたはずの大きな鉄棒の柱が、しずくが触れた拍子にぐらりと傾き、嫌な音を立てた瞬間を、俺は見ていた。
あのとき、友達が『怪物みたい』だと言って怖がる姿も、その言葉にしずくが深く傷ついた顔も、今でもはっきりと覚えている。



