最強パティシエは、幼なじみに恋をする



文化祭からあっという間に2ヶ月が過ぎ、季節は冬に向かっていた。


窓から差し込む日差しは弱く、赤や黄色に色が変わった街路樹の葉っぱが、冷たい風に吹かれてヒラヒラと地面に舞い落ちる。


口から白い息が出るたび、「ああ、もうすぐ冬だなぁ」って、体の奥がひんやりするのを感じた。


そんななか、学校では次にやってくる大きなイベント、マラソン大会の準備が始まっていた。


「ねぇ、しずくー。体育の先生、マラソン大会の練習、明日から本格的に始めるって言ってたね」


昼休み。隣の席の七海がお弁当を広げながら、顔をくしゃっとしかめた。その顔は、まるで酸っぱいレモンをかじったみたいだ。


「うん……今年も、あの長い距離を走るんだよね」


私は「はぁ」と、小さくため息をついた。


マラソン大会。私にとって、それは年に一度の苦行だった。


体力には自信がある。重たいものでも軽々と運べるし、お菓子作りでは高速で正確な作業をこなすことだってできる。


だけど、長時間同じペースで走り続けるのが、本当に苦手だった。


瞬発力はあっても、長距離走に必要な持久力がない。力をセーブして淡々と走るペース配分も、どうしてもうまくいかない。


走り始めは勢いよく飛び出すものの、すぐに息が上がってしまって、周りのみんなについていくことができない。


気がつけば、いつも最後尾をゼェゼェと息を切らしながら走っている。