「篠宮くん、このイベントブースの重い台、私も運ぶの手伝おうか?」
湊斗は表情を変えることなく、静かに首を横に振った。
白鳥さんは、ほんの一瞬残念そうにしたものの、すぐに湊斗の手元にある、お菓子の設計図に視線を落とした。
「篠宮くんって、お菓子作りが得意なのね。私も甘いものは、大好きなの」
さりげなく会話を試みる白鳥さんの声が、私の耳にもはっきりと届く。
二人の間にあるはずの距離が、見る見るうちに縮まっていくように感じて……私は無意識のうちに、手に持っていた筆をぎゅっと握りしめていた。
看板に塗っていた絵の具が、筆の圧で滲んでしまいそうになる。
私は少し離れた場所から、二人の様子をただ見つめることしかできなかった。
心臓のあたりが、チクリとした痛みで締めつけられる。
この前、図書室で感じた、説明できないざわつきと、まったく同じ。
もしかして白鳥さんは……湊斗のことが好きなのかな?
白鳥さんが湊斗に話しかけるたびに、私の胸の奥がキュッと苦しくなる。
この感情が何なのか、まだはっきりとは分からないけれど。
この胸の痛みは、今まで感じたことのない、特別なものだということだけは、はっきりと分かった。



