最強パティシエは、幼なじみに恋をする



湊斗は、いつもそうだ。誰かに何かをしてあげても、それが当たり前のように、さっとその場から離れてしまう。


残された私は、まだ指先に残る感触と、高鳴る心臓の音をどうすることもできずに、その場に立ち尽くしていた。


湊斗の背中が、遠く、小さくなっていく。


彼の後ろ姿をぼんやりと眺めていると、突然、図書室の入り口から明るい声が聞こえた。


「篠宮くん!」


振り返ると、そこにいたのはクラスの優等生で、誰もが認める美人、白鳥(しらとり)(はな)さん。


彼女のつややかな黒髪のストレートロングヘアは、いつも綺麗に手入れされている。


すらっとした立ち姿で、清楚な雰囲気がある白鳥さんは、湊斗に向かってにこやかに手を振っている。


湊斗もそれに気づき、軽く手を上げて応えた。


白鳥さんはそのまま湊斗に近づいていき、楽しそうに何か話し始めた。二人の距離は、あっという間に縮まっていく。


私は、そんな二人の様子を、本を胸に抱きしめたまま、ただ見つめることしかできない。


そのとき、私の胸の奥に、チクリとした痛みが走った。それは、今まで感じたことのない、説明できないざわつきだった。


あれ、この気持ちって……?


私は、自分の胸にそっと手を当てる。心臓が、さっきよりも少しだけ、速く脈打っている気がした。


これは、一体何なんだろう?


そんな私の疑問だけが、図書室の静寂の中に、ぽつんと浮かんでいた。