【マンガシナリオ】天音センパイのお気に入り

〇大学・デザイン学科の講義棟・作業室①

柊斗が近づいてきて、光瑠が着ているチェックのポロシャツのボタンに手をかける。

柊斗「脱がせていい?」

光瑠(これって、体で支払え的な?)(待て待て。先輩って男もイケるわけ!?) ※フリーズする。

柊斗「なーんて、冗談だよ。どう、ビビった?」

光瑠「え?」 ※ポカーンとする。

柊斗「俺を暇人扱いした仕返し」 ※イタズラっ子のような顔。

光瑠(子供かっ!!)

柊斗「でも服の上からでいいから採寸はさせてもらう。あげるからにはちゃんとその人に合った形に直したい」 ※真剣に。

光瑠「はい……お願いします」 

光瑠はされるがままに採寸される。

さらしを巻いている胸周りも当然計測され、若干ドキドキする光瑠。少し気まずい。

光瑠「あの……」

柊斗「ん?」 ※計測しながら。

光瑠「先輩は何のサークル入ってるんですか?」

柊斗「サークル? 何も入ってないよ」

光瑠「そうなんですか。ちょっと意外です」

柊斗「怪しげなパリピサークルに入りかけた人には敵わないわ」 ※イジる。

光瑠「思い出させないでくださいよー」

柊斗「どこか入らなきゃって気持ちになるのはよく分かるけどさ。貴重な4年間を、無理やり入ったサークルで無駄にするのはもったいないと思う」「入りたいとこないなら、いいよ入らなくて。これ、先輩からのありがたーいアドバイスな」

光瑠は口をぽかーんと開ける。

光瑠「先輩って、たまにはまともなことも言えるんですね」 ※心の底から感心。

柊斗「そんな心の底から驚かれるなんて心外なんだけど! 七瀬の中でどんだけロクでもない男認定されてんの、俺」 ※ケラケラ笑う。

光瑠「すいません、つい」

そんな会話をしていたら採寸が終わる。

柊斗「よし。じゃあ直し終わったら連絡するわ」

そう言って柊斗は光瑠に手のひらを差し出す。

光瑠「?」

柊斗「スマホ貸して。番号登録する」

光瑠「いいですよ。だいたいの時期教えてもらえれば取りに来ます」

柊斗「大丈夫。詐欺師の番号じゃなくて、ちゃんと俺の登録するから」

光瑠「いや、詐欺師の方がいいです」

柊斗「おい!」

光瑠「冗談です」 ※優しく笑う。

光瑠がスマホを渡すと、【天音柊斗】の連絡先が追加されて戻ってくる。


〇居酒屋・光瑠のバイト先(夜)

光瑠と櫂が息ぴったりでホールを回す。

光瑠「向こうもう片付け終わってる!」

櫂「サンキュー。5番卓さんそろそろお会計だからお願いしてい?」

光瑠「了解」

光瑠はレジで会計対応。

光瑠モノ『あれから2週間。特に先輩からはなんの連絡もない』

光瑠(きっと忙しいだろうに、余計な仕事増やして申し訳なかったな)

そんなことを考えていると、入り口から新規の客が入ってくる。

光瑠「いらっしゃいませ!」

入って来たのは柊斗と美人な女性。
絵に描いたような美男美女カップル。

柊斗「え、七瀬? ここでバイトしてたんだ!」

光瑠「はい。2名さまご案内しますね」

光瑠は柊斗たちを案内してから、厨房カウンターに戻る。

櫂「あの人、光瑠と仲良い4年生だよな?」

光瑠「仲良い……? とはちょっと違うけど」

櫂「彼女キレ〜。うちの大学かな」 ※見惚れる。

光瑠(彼女とかいたんだなぁ。そりゃいるか) ※淡々と。

光瑠はボーッと柊斗たちの方を見つめる。
柊斗と女性は楽しそうに笑いながら会話している。
距離も近い。

櫂「安心しろ光瑠」

光瑠「ん?」

櫂「光瑠だって負けてない! 女装したら俺はお前の方が絶対綺麗だと思う! だから元気出せ、な!」 ※励ますように。

光瑠モノ『変な勘違いししてるやつがここにも1人』 ※苦笑しながら。

光瑠「はいはいありがとー」 ※あしらうように。

それから時間が経ち、柊斗たちが会計をする。

光瑠「ありがとうございました」

柊斗「バイト何時まで?」

光瑠「10時です」

柊斗「そっか。頑張れよー!」

女性「ご馳走様でした」

光瑠「ありがとうございました。お気をつけて」

柊斗たちを見送り、光瑠は片付けに戻る。

光瑠(先輩結構お酒飲んでたけど、全然顔変わってなかったな。お酒強いんだ)(いや、あの人のことはもういいから私!) ※光瑠は雑念を払うように首を振る。

作業を終えてから厨房に顔を出す。

光瑠「お疲れ様です。お先に失礼します!」

店長「お疲れさん!」

櫂「また明日な〜」


〇居酒屋・店の外(夜)

光瑠が店の外に出ると、柊斗がタバコを吸って立っている。

柊斗「お疲れ!」

光瑠(タバコ吸うんだ。しかも紙)

光瑠が近づくと、光瑠に煙を吸わせないようにタバコを反対の手に持ち替えて、吸い殻入れに潰す。

光瑠「ずっとここにいたんですか? 彼女さんは?」

柊斗「彼女? あー美月のこと? 彼女じゃなくて幼馴染。とっくに家まで送った」

光瑠「良かった。夜道を女子1人で帰らせたのかと」

光瑠(でも、それならなんでわざわざ店まで戻って来たんだろう……?)

柊斗「俺が女子を1人で帰すわけないじゃん。ほら、行くぞ」

柊斗は歩き出すが、光瑠は止まったまま。

光瑠「すいません。私バスなのですぐそこなんです」 ※申し訳なさそうにすぐ近くのバス停を指差す。

柊斗「じゃあ俺もバスで帰る!」 ※やや恥ずかしそうに、投げやりに。

そんな柊斗を見て思わず笑みが溢れる光瑠。

光瑠(ちょっと可愛いかも)

柊斗は大股でバス停まで行って椅子に座り、光瑠も座れと言うように自分の隣をトントンと叩く。
仕方なく隣にちょこんと座る光瑠。

柊斗「でもまさか七瀬があそこでバイトしてたなんてな。考えてみれば俺、七瀬のこと何も知らなかったわ。なんでうちの大学入ったの?」

光瑠「一人暮らしがしたくて、なるべく実家から遠い大学が良かったんです」

柊斗「分かるわー。俺も一人暮らしするの超楽しみだったもん。兄弟とかはいんの?」

光瑠「……いないです」 ※少し表情がこわばる。

柊斗「ひとりっ子か。弟とかいそうだけどな」

光瑠「……双子の弟はいました。でも10歳の時に亡くなったんです。私のせいで」

柊斗「え?」 ※声色が変わる。

光瑠はハッと口元を押さえる。

光瑠(やだ、何話してんの私) ※後悔する。

その時、ちょうどバスが到着。

光瑠「……帰ります」

柊斗「俺も乗るよ」 ※立ち上がる。

光瑠「来ないでください!」 ※ピシャリと言い放つ。

光瑠の言葉で柊斗は動きを止める。
光瑠は扉が開いた瞬間にバスに飛び乗る。
そして2人を切り離すようにバスの扉が閉まり、光瑠を乗せたバスが発車する。
バス停に残された柊斗。
動き出したバスの車内で、光瑠は窓にコツンと頭を寄せる。

光瑠(あぁー最低だ私……)


〇大学・講義室

経済学の講義室に柊斗が入ってくる。
柊斗を知っている女子たちは嬉しそうにチラチラ見る。
珍しく女子たちに目もくれずに、誰かを探す柊斗。
見知った顔の櫂を見つけて近づく。

柊斗「ねぇ、七瀬いる?」

櫂「今日は来てないです」

柊斗「そっか……ありがと」

柊斗が出て行ったのを確認して、櫂は離れた席でジャケットを被って机に突っ伏している学生に声をかけに行く。

櫂「もういいぞ」

櫂がジャケットをめくると、被って机に突っ伏していたのは光瑠。

光瑠「ありがと」

櫂「なんで隠れてんだよ。この前は仲良さそうだったじゃん。喧嘩? なんか嫌なこと言われた?」

光瑠「違う……先輩は何も悪くない……」

光瑠モノ『ただ私が一方的に避けてるだけ……先輩は私がバイト終わるのを待っててくれたのに。あんな言い方したこと、ちゃんと謝りたい、お礼も言いたい。でも……』『あの時言いかけた海里のこと、自分のことを先輩に話すのが怖いだけだ』

光瑠は再び机に顔を伏せる。


〇映画館・スクリーン

光瑠と美空が映画を観にきている。
相変わらず2人が並ぶとカップルのように見える。
上映が終わり、明るくなる。

光瑠「映画面白かったね」

美空「うん! やっぱ観に来て良かった〜。ありがとね、急に誘ったのに付き合ってくれて」

光瑠「私も気になってたからちょうど良かった」

そんな会話をしながら外に出る。

光瑠「トイレ行って来てもいい?」

美空「分かった〜! 私売店見てるね」

2人は別れて光瑠はトイレに入る。


〇映画館・トイレ

光瑠がトイレで手を洗っていると、スマホにメッセージが届く。
柊斗からで、〈柊斗:コートできたから渡したい〉と。

光瑠(せっかく作ってくれたけど、私なんかが貰えるわけない……)

光瑠はメッセージを見なかったことにしてそのままポケットの中に仕舞う。
俯きながら女子トイレを出ると、誰かとぶつかってしまう。

光瑠「あっ、すみません」

顔を上げると、そこにいたのは柊斗。
偶然すぎる出来事に、光瑠も柊斗も驚いて目を丸くする。

光瑠「先輩……!」

柊斗「七瀬……!」