【マンガシナリオ】天音センパイのお気に入り

○大学・キャンパス内(夕方)

歩いている光瑠と柊斗。
ところが柊斗が急に立ち止まり、光瑠の頭に手を置いて逃げられないようにし、ぐっと顔を近づける。

柊斗「もしかして俺たち、どこかで会ったことある?」 ※全てを見透かすような目と、本気の声のトーン。

光瑠の顔から血の気が引いていく。

光瑠(しまった……! 私たち、ほんとはまだ初対面なんだった!)

光瑠は必死に首を横に振って否定する。

柊斗「そっか……俺、デザイン専攻4年の天音柊斗。よろしく」 ※爽やかに。

光瑠「経済学科1年の七瀬です……」 ※控えめに。

柊斗「そういえば今日会った1年も経済って言ってたな〜しかも名前は七瀬だったような……知ってる?」 ※わざとらしく。

光瑠「い、いえ……」 ※目が泳ぐ。

柊斗「同じ学科に同じ苗字が2人もいたら結構目立つと思うけど。本当に知らないの?」 ※光瑠の反応を見て楽しんでいる。

光瑠「専攻が違うのかも……しれない……デス」 ※たじたじする。

柊斗「ふ〜ん」 ※ニヤッと笑う。

光瑠「デザイン専攻ってことは、服作ったりするんですよね! ぜひ見せてほしいです!」 ※無理やり話題を変える。

柊斗「しょうがないな〜」 ※まんざらでもなさそうに。

柊斗はスマホで服の写真を見せる。
様々な服を着た学生たちのスナップがたくさんある。
その中に、例のトレンチコートを着た男子学生の写真がある。

光瑠「これ、やっぱりメンズのトレンチコートなんですか!」 ※光瑠の目の色が変わる。

柊斗「たまたまモデルが男だっただけで、メンズものってわけでもないよ。俺はさ、老若男女関係なく、誰が着ても楽しめる服を目指してんだ」 ※熱く語る。

光瑠「老若男女誰が着ても楽しめる服……」 ※ 目を丸くする。

柊斗「そういえばもう1人の七瀬さんも、そのトレンチずっと見てたな〜?」 ※ニコニコしながら。

光瑠「へ、へぇ〜。その人と好み合うかかも……」

柊斗「ところでそのリュック随分重そうだけど、変装道具でも入ってんの?」 ※光瑠のリュックを指差す。

光瑠(言えない……まさか健康診断のためのワンピースとパンプスとバッグが入ってるなんて言えない)

光瑠「違います! パソコンとか教科書です! 1年生なので色々重くて!」 ※必死に誤魔化す。

柊斗「ふ〜ん。そっか」 ※王子スマイルで納得した様子。

光瑠は冷や汗をかく。


○大学・講義室(翌日)

授業が始まる前。
光瑠は席についている。

光瑠(昨日、絶対先輩に怪しまれてたな……)

櫂「よーっす。光瑠」 

櫂が元気よく光瑠と肩を組む。

光瑠「おはよ、海老原」

櫂「なぁ、サークル決めた?」

光瑠「いや、まだ。もう考えたくない……バイトも探さなきゃいけないのに」 

光瑠は机に項垂れる。

櫂「じゃあバイトはうち来いよ! 人手足りなくて困ってるって店長言ってたから」

光瑠「居酒屋だっけ?」

櫂「うん。店長優しいし、賄いでるし、楽しいぜ。良かったら話通しておくけど!」

光瑠「いいの? 助かる!」

櫂「俺ほぼ毎日入ってるから、なんか困ったことあったらいつでも言えよ」

光瑠「気が早いって。面接もまだなのに」 ※苦笑い。

櫂「大丈夫、面接なんて秒で終わるから! 光瑠なら絶対採用!」


〇居酒屋(夕方)

光瑠「はじめまして。七瀬光瑠です。よろしくお願いします」

頭にタオルを巻いた人の良さそうな店長に履歴書を渡す。
店長は履歴書を一瞬見るや否やすぐに、

店長「海老原から話は聞いてるよ〜! よろしくね。明日から来れる? なんなら今からいける?」

光瑠「は、はい」 ※目をパチパチさせる。


〇大学・講義室(後日)

光瑠と櫂が隣同士で座って会話。

櫂「だから言ったろ? 秒で終わるって」

光瑠「うん。ほんとに秒だった」

櫂「店長めっちゃ喜んでたよ。俺も光瑠が入ってくれて嬉しいし。バイトでもよろしくな」

櫂が光瑠に拳を出す。

光瑠「こちらこそ、よろしく」

光瑠も自分の拳を合わせる。
そこへ希と玲奈がやって来て話に交ざる。

玲奈「なになに、2人バイトも一緒なの? ほんと仲良いよねぇ」

櫂「いいだろ〜」 

玲奈「はいはい、羨ましー」 ※適当に流す。

一方希は、思い詰めた表情で光瑠を見つめていて、光瑠もその視線に気づいている。

光瑠(なんか、見られてる……?)

櫂「てかもう昼じゃん。食堂行こうぜ!」

光瑠「あぁ」

櫂や玲奈が歩き出し、続いて光瑠も立ち上がると、希が控えめに光瑠の服の裾を掴んで止める。

光瑠「っと……どうした?」

希「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、後で2人で話せる?」 ※真剣な表情。

光瑠「……分かった」

希「じゃあ後で」

希はパタパタと玲奈の横に走っていく。

光瑠(聞きたいことってなに!? もしかして、私のこと気づかれた……?) ※ドキドキする。

光瑠はゴクリと喉を鳴らす。


〇ファミリーレストラン(夕方)

テーブル席で向かい合う光瑠と希。
光瑠の心臓はドキドキしていて、希も緊張した表情。

光瑠「聞きたいことがあるんだよね?」 ※おそるおそる。

希はコクリと頷く。

希「光瑠くんはさ。櫂のことどう思ってる……?」

光瑠「どうって……騒がしいけど、いい奴だなと。大学入って初めて声かけてくれたのも海老原だったし」

希「それだけ……?」

光瑠「というと……?」

希「本当は2人、付き合ってるんじゃないの!?」

光瑠「えぇっ!?」

光瑠(まさか上原さん、海老原のこと……)

光瑠「好き、なんだね」 

希「……うん」 ※ポッと頬が赤くなる。

光瑠「安心して。海老原とは仲のいい友達。それだけだよ」

希「光瑠くんはそうでも、櫂は違うかも」

光瑠は小さく笑う。

光瑠「……だって、海老原が好きなのは女の子だよ?」

希は光瑠の言葉で目が覚めたように、

希「そっか……そうだよね! 私何言っちゃってんだろ。ごめんね!」 ※顔が明るくなる。

光瑠「何かできることがあれば協力するよ。応援してる」

希「うん! 光瑠くんありがとう〜」 ※ホッとしている。

光瑠(アオハルだなぁ) ※微笑む。


〇大学・食堂

昼ごはんを食べる光瑠と櫂。
光瑠は食事の手が止まり、目の前の櫂をじっと見る。

櫂「なんだよそんな熱い視線で見つめて」

光瑠「あ、ごめん」 ※我に返り食事に戻る。

櫂「はっはーん。さてはやっと俺の魅了に気づいたな? 同性までも虜にするとは、なんて罪な男なんだ俺」 ※ドヤ顔で。

光瑠(こういう冗談は言うくせに、いざ自分に本気で向けられた好意には鈍そうなんだよなぁ海老原は)(頑張れ上原さん! 私応援するから!)

食べ終わり、お盆を持って下膳コーナーに向かう2人。

光瑠「今度さ、上原さんたちも誘って遊びに行こうよ。どう?」

櫂「もちろん賛成。どこ行く?」

柊斗「いいな〜俺とも遊びに行こうよ」 ※ニコニコしながら。

光瑠が声の方を見ると、目の前に柊斗が紙袋を抱えて立っている。
柊斗のアイドルオーラのせいで、光瑠まで周りの女子たちから注目を浴びるハメになる。

光瑠「いえ、大丈夫です」 ※面倒くさそうに。

柊斗「誰か誘って断られたの生まれて初めてだよ。逆に新鮮だ」 ※なぜか嬉しそうに光瑠の頭にポンと手を乗せる。

しかし光瑠は頭に乗せられた手を丁寧にどける。

光瑠「4年生って暇なんですね?」 ※呆れながら。

柊斗「んなわけないだろ。夏に向けて薄手の生地とか色々仕入れて来たから、こっから大忙しだよ」

光瑠が柊斗の紙袋を覗くと、中にはカラフルな生地がたくさん入っている。

光瑠「仕立てていくんですね!」 ※急に目が輝き始める。

柊斗「作業部屋寄ってく?」

光瑠「……ま、まぁ。先輩がどうしてもって言うなら? しょうがないですよね。行きます」 ※明らかに行きたそう。

柊斗「素直じゃないねぇ」 ※楽しそうに口角を上げる。

光瑠「ごめん、ちょっと行って来る!」 ※ワクワクしながら。

櫂「行ってら〜!」

光瑠は櫂と別れて柊斗について行く。
櫂は2人を見送りながら、

櫂「良かった。アイツあんな顔もすんだ」 ※安心する。


〇大学・デザイン学科の講義棟・作業室①

柊斗が扉を開ける。

柊斗「どうぞ」

光瑠「お邪魔します……」

部屋の中には誰もいない。
光瑠はまた例のトレンチコートをうっとり見つめる。

柊斗「そんなに気に入ってくれたなら、それあげるよ」 

光瑠「へ……?」

光瑠は何を言われたのか理解するのに数秒かかる。

柊斗「でもさすがに肩幅大きいよなぁ。モデルにしたのラグビー部のやつだし。直さないとダメだな」 ※光瑠のことは気にせず話を進める。

光瑠「……な、何言ってるんですか! ダメです。大事な作品をもらうなんてそんな!」

柊斗「いーのいーの。マネキンでずっと飾られてるより、大事に着てくれる人の方がコートも喜ぶって」

光瑠「じゃあ、買い取ります! 3万……いや、5万? あの、分割払いはダメですか……?」 ※真剣に。

柊斗「フハッ。おもろいなー七瀬」
「じゃあ金はいらないからさ、代わりに……」

光瑠「はい!」

柊斗が近づいてきて、光瑠が着ているチェックのポロシャツのボタンに手をかける。

柊斗「脱がせていい?」

光瑠(これって、体で支払え的な?)(待て待て。先輩って男もイケるわけ!?) ※フリーズする。