紫陽花に雨粒が光るある日、テレビに映ったのはとある事件のニュース。大人気のファッションモデルが女に腹部を刺され死亡。嫌われ続けた彼はこんな結末を迎えてしまった。喪服に身を包んだ私はお焼香をあげ彼の遺影を見つめる。



『あの時どうして私に___』



心の中で問いかける。その答えは当然返ってこない。そんな時背後からつんざくような女の声がした。同年代か少し上の綺麗だがやつれ気味の女性に「受け取ってほしいの」と彼の母親が懇願していた。その手には白い封筒が握られている。「そんなものいらないわ!」と突っぱねた女性は帰ろうと背を向けたが最後振り返り彼の遺影をキッと睨みつけて「こんな浮気男死んで当然だわ!」と吐き捨て去っていった。そんな捨て台詞にあからさまに肩を落とした彼の母親だがその顔には仕方ないといった諦めも窺えた。
とことん彼は嫌われ続け、死んでもなお嫌われる。きっとあの白い封筒は彼が書き残した遺書といった所か。その宛名はきっとさっきの女性。ほんの少し、そうほんの少し切なさを胸に感じながら私は葬式場をあとにした。