はいはい、こちら中野通交番です。 ただいま熱愛中。

 グルリト回って家に帰ってきた。 「たまにこうして徘徊するのもいいわね。」
「徘徊?」 「そうそう。 今からさ迷う練習もしとかないとさあ。」
「変なことを言うなあ。」 ポストに何か入ってる。
 麻理がチラリと俺を見て「はい。」って渡した。 それは交番の閉鎖通告だった。

 『本年10月31日をもって中野通交番を閉鎖する。 よって巡査は解職となる。
希望が有れば他の部署へ転属することも可能である。 9月30日までに申し出られたい。』

 「あの交番もいよいよ終わりか。」 「長かったわねえ。」
「俺も40年務めてきたんだ。 長かった。」 「存在意義は最初から怪しかったのにねえ。」
「何でだよ?」 「だってこんな平和な町に交番なんて要らないでしょう?」
「そりゃそうだけどさあ、俺みたいなのが居るから、、、。」 「県警も相当に悩んだのねえ。 お父さんみたいなのが居て。」
言われても文句は言えないわ。 その通りなんだから。

 俺は部屋に籠るとお人形さんを寝かせてみた。 「よく出来てるよなあ。」
腹をツンツンしてみる。 弾力が堪らない。
(本物みたいだぜ。) ついでに膝枕してみる。
うーーーーん、何とも言えませんわーーーーー。 そこへ麻理がドアを開けた。
でもでもでも、いつもと違って麻理はそっとドアを閉めて何処かへ行ってしまったのだ。。
 俺はというとお人形さんの膝枕でそのままに寝てしまったのだ。 なんか気持ちいい。
風が涼しくなってきて夕方のチャイムが聞こえる頃、麻理が帰ってきた。 「起きてるかなあ?」
そう言いながら寝室のドアを開ける。 「まだ寝てるのね? こらーーーーーーーーーー! 起きろーーーーーーーーーーーーーー!」
 耳元で吠える麻理は思い切り拳骨を、、、。 「いてえ!」
「お目覚めのようですねえ。 お父さん。」 「お目覚めに拳骨はないだろう?」
「だらしなく寝てるんだもん。 怒るわよ。」 「何でだよ?」
「妻は私なの。 そのお人形じゃないの。 分かってる?」 「分かってるよ。」
「分かってないでしょう? じゃあ何でお人形を抱いてたのよ?」 「いや、だから、それは、、、。」
「言い訳無用よ。 この不倫親父。」 「人形に不倫は、、、。」
「人形でもあれじゃあ不倫だわ。」 「しかし俺は、、、。」
「しかしもたかしも無いの。 じゃあ何で胸を触ってたのよ?」 「お前のを触りたいから。」
「結局はそこか。 しょうがないなあ。 子供なんだから。」 「ショウガは冷蔵庫に入ってるよ。」
「くだらないことを言わないで!」 またまた拳骨が飛んできた。
「ウギャーーーーー!」 「ぶっ倒れてろ! ボケナス!」
 麻理はそう言うと台所に立った。

 30年前から秘かにいろいろと騒がれていた婚姻勘定。 未だにブツブツ言っているやつが居る。
同棲婚だとか事実婚だとか取り敢えず婚だとか不正婚だとか、、、。 どうでもいいじゃねえか そんなことは。
そもそも日本の婚姻事情は古事記の昔から原則は変わらない。 ただ現代人には女性のみが姓を変えることにご不満が有るんでしょうなあ。
それを見れば「女を差別してるーーーーーー!」ってお思いになるんでしょうから。 ところがさ、あの和泉式部だって初婚の姓を守り続けたんだよ。
今はどうだい? 事実婚はまあいいとして取り敢えず婚なんていうやつらが幅を利かせている。 異常な社会だぜ。
 そのおまけに「あなたも私も性交渉自由、不倫も自由、自由気ままにやりましょう。」なんて変なのが出てきたから周りの連中まで乗せられちまって、、、。
結果、どうなった? 夫婦が破滅したよね。 何でもかんでも自由気ままにやりたいんだったら結婚なんかする意味は無い。
その辺の闇で遊んでろよ。 うざいだけだから。
 しかもそれをさあユーチューバーがやっちゃったもんだから大変なんだよ。 いいの悪いのって荒れに荒れまくって。
こんなもんでいいのかね? まったくおかしな国だよ。
『セクシー!」で議員をやってられる国なんだからなあ。 日本人を全部入れ替えたほうがいいんじゃねえのか?
 明治 大正の人たちが見たらどう思うだろうなあ? 憐れすぎて何も言えないかもなあ。
あの時代の人たちはまだまだ武士道が生きていた。 今はどうだい?
邪道の塊じゃねえか。 なあ、麻理さん?
 フラフラと台所に行ってみる。 麻理は調理の真っ最中。
その後ろに立ってお尻を眺めていると、、、。 いきなり蹴りが飛んできた。
「ホームラン!」 そう言ってひっくり返る俺に麻理は不思議そうな顔をする。
「どうしたの?」 「直撃したからなのだあ。」
「何が?」 「お前の痛い踵が命中したんだよ。 気付いてないだろう?」
「あっそう。 ごめんなさいねえ。」 澄ました顔でフライパンを振る。 (あんちきしょうめ、、、。)
 何をやっても麻理には勝てないのでありまーす。 自慢するなっての。
尻に敷かれた旦那ってのはこうなるのよ。 オホホ。