家を出て西に行くと交番が在ります。 「こっちはいいわよ。 何度となく歩いたから。」
「よしよし。 じゃあ杉下通りに出るか。」 あの火を出した劇場の一本南側の道。 ここにはペットショップとかコロッケ屋とか弁当屋が在りますなあ。
「こっちはあんまり来たことが無いなあ。」 「そうなの?」
「だってショップからけっこう離れてるから。」 「そういえばそうだよな。」
麻理と二人で初めて歩いたこの道、何か青春時代に戻ったような気がする。 不思議だね。
もう俺も麻理も60を過ぎてるんだ。 じじいだのばばあだのって呼ばれてもおかしくは無いんだよ。
揃ってこれという大病はやらなかった。 奇跡七日、魔王がそうしてるのかは知らないが、、、。
知り合いの中では心筋梗塞だの糖尿病だのって言われて病院漬けにされてるって言うのに、、、。
「こうして元気で居られるって言うのも不思議な物よねえ。」 「そうだなあ。 病気ってやつに無縁だからな 俺たち。」
「そうねえ。 お姉さんも嫌になるくらい元気だもんねえ。」 「あれは別だよ。」
「そう?」 「姉ちゃんは怪獣だからな。」
「だよなあ。 弟に引っ付いてこれまで生きてきたんだもんなあ。」 麻理は転がっている空き缶を思い切り蹴飛ばした。
通りを過ぎると川に出てきました。 河川敷は相変わらず荒れ放題に荒れてますなあ。
「誰も手を出さないのねえ。」 「ここまでなったら誰だって面倒だよ。」
「そうだなあ。 今の役所の人たちじゃあとてもやらないわね。」 「あいつらは遊べればいいんだ。 能無しの脳無しだ。」
「税金泥棒して楽しいかなあ?」 「楽しいから辞めないんじゃないの?」
「そっか。 楽しいのか。」 話しながら川沿いの道を北へ歩いて行きます。
もうすぐショップです。 「ここで曲がろう。」
手前の道を左に曲がると喫茶店 山猫が見えてきました。 「入ろうよ。」
「よしよし。 ここでのんびりしようか。」 俺は麻理と二人で山猫のドアを開けた。
ここのマスターは大の猫好き。 猫みたいな顔をしてコーヒーを入れてくれるんだ。
「久しぶりだねえ。」 「そうですね。 10年ぶりくらいかな。」
麻理も椅子に座って壁に飾られた写真を見詰めてます。 「可愛いねえ。」
「そう? この猫たちさあ5年前に死んじゃったんだ。」 「あらまあ、そうだったの?」
「1匹は風邪をひいちゃってダメだった。 1匹は外に出た所をトラックに踏み潰されたんだ。」 「可哀そうに。」
「だから玄関の脇に供養塔が建ってたわけね?」 「あれはトラックの運転手がお詫びにって建てたんだよ。」
「へえ、珍しいじゃない。」 麻理はコーヒーを飲みながら店内を見回した。
「そういえばマスター、奥さん居たわよね?」 「ああ。 3年前に離婚した。」
「あらまあどうして?」 「不倫してたんだよ。」
「不倫? あの奥さんが?」 「麻理、知ってるのか?」
「知ってるわよ。 店長の妹だったから。」 「奥さん 知ってたの?」
「うん。 店長がいきなり居なくなったからおかしいなと思ってた。 離婚してたのか。」 「分からないもんだなあ。」
「でもよくもまあ、あの体で不倫できたわね?」 「どういうこと?」
「マスターには悪いけどさあ、とても美人とは言えないしドラミちゃんより真ん丸だしお腹は出てるし、、、。 そんなんで捕まえる人が居たの?」 「それがさあ、芸人だったんだよ。 小判とかいうやつ。」
「あいつか。」 俺たちは思わず顔を見合わせたんだ。
「チンチンドンドンとかってうるさいやつだろう?」 「そうそう。 うちの前を通るから気にはなってたんだ。 そしたらうちのやつが、、、。」
「まあ、いいじゃない。 新しい人を捕まえるチャンスが来たのよ。 マスターなら捕まえられるわよ。」 「そうかなあ? 相手は居ないんだけど。」
「居ないって思うから無理なの。 見てくれてる人はちゃんと居るから頑張ってよ。」 「そうだね。」
「俺たちだってさあ、互いに結ばれるとは思わなかったんだから。 ねえ。」 そう言ったら拳骨が飛んできた。
「どういう意味なのよ? 私たちは結ばれるべくして結ばれたの。 余計なことを言わないで。」 「すんましぇん。」
「奥さん ご主人は大切にしなきゃ、、、。」 「いいの。 踏み付けておかないと何をやるか分からないんだから。」
俺たちがのんびりしている所へ客が入ってきた。 「いらっしゃい。」
「今日も来ちゃった。」 その声はショップの片桐さんだ。
「あらあら麻理さんも来てたの?」 「そうよ。 たまの休みだからデートの最中なんだ。」
「へえ、誰と?」 その返事にみんなはぶっ倒れた。
「誰とって? 見りゃ分るでしょう? 旦那よ。」 「え? この人が旦那?」
「片桐さんにも紹介しなかったっけ? 3年くらい前に。」 「忘れた。」
「いいわ。 もう話さないから。」 マスターは床にお湯をばら撒いたらしく大焦りで掃除をしている。
「出ようか。」 「そうね。」
俺たちは片桐さんを残して店を出た。 そして供養塔の前に、、、。
「猫ちゃん 死んじゃったのね。 可愛かったのに、、、。」 手を合わせる麻理の隣で俺も、、、。
「さあ行きましょう。」 目を閉じていた麻理が歩き始めた。 思えば道路も単なるアスファルト舗装じゃなくなったんだよな。
だって30年前、嫌というほど温暖化が騒がれてアスファルト道路の見直しが検討されてきたんだ。 ついでに土管の老朽化も急激にクローズアップされて大問題にされた。
真冬の寒い時期に崩落事故を起こしてトラック運転手が死んでるんだもん。 そりゃあ騒がれるよ。
しかも埋めてからこれまで一切点検してなかったって言うんだから驚くよね。 コンクリートだぜ ボロボロになるのは分かってるんだろう?
それもさあ、その後で調査したら緊急取り換えが必要な土管が25キロ分くらい有ることが分かってさらに大騒ぎになった。
数年以内に取り換えが必要な物を入れると750キロ分なんだとか、、、。 ふざけるんじゃねえよ!
全国あげてこれまで何もしてこなかったことが暴露されちゃったね。 お粗末すぎるよ まったく。
余計なことには湯水のごとくに税金を使いまくるのにこういう大事なことには振り向きもしないんだからなあ。 それでいて「金が無い。」とか「税金を増やす。」とか抜かすんだもん。
役所の人間がどれだけ信用できないかよーーーーーーーーーく分かったよね。
以来、地方交付税交付金の中で一定割合をインフラ整備費用に限定させられて真っ赤になってる知事がどれほど居たか、、、。
しかもそれには付録が付いていた。 了解事項を守らなかった自治体には二度と交付金を支給しないんだって。
もちろん2年ほどの猶予が有ったんだ。 でもやっぱり聞かなかったやつは居た。
その県には今も交付金は支給されていない。 憐れなもんだぜ。
アスファルトも改良に改良が加えられて今は泡沫アスファルトなる物が敷き詰められている。 泡がいっぱい詰まったアスファルトだって。
こいつには空洞がいっぱい有るから雨水も地下に沁み込みやすいんだ。 おかげで暖かい水が川を流れ下ることは無くなった。
そのおかげでフェーン現象も無くなって突然の豪雨も減らせたわけさ。 ついでに言えば室外機を伴うクーラーも30年で全廃された。
室外機が有るとそいつが熱気を四六時中吐き出すから嫌でも気温が上がるんだよ。 自分で自分の首を絞めてたわけだ。
自分で首を絞めておいて「殺されるーーーーー!」って騒いでたわけね。 馬鹿みたいだよ。
温暖化は地球のせいみたいに言ってたけど自分たちでそうなるようにやってたなんてなあ。
それも有ってか今じゃあ温暖化なんて聞かなくなった。 電線も姿を消したしね。
もっと言えば重要な建物以外は木造にすることも法律で定められてしまった。
だからマンションだって木造だぜ。 風が吹いたら怖いけどなあ。
「よしよし。 じゃあ杉下通りに出るか。」 あの火を出した劇場の一本南側の道。 ここにはペットショップとかコロッケ屋とか弁当屋が在りますなあ。
「こっちはあんまり来たことが無いなあ。」 「そうなの?」
「だってショップからけっこう離れてるから。」 「そういえばそうだよな。」
麻理と二人で初めて歩いたこの道、何か青春時代に戻ったような気がする。 不思議だね。
もう俺も麻理も60を過ぎてるんだ。 じじいだのばばあだのって呼ばれてもおかしくは無いんだよ。
揃ってこれという大病はやらなかった。 奇跡七日、魔王がそうしてるのかは知らないが、、、。
知り合いの中では心筋梗塞だの糖尿病だのって言われて病院漬けにされてるって言うのに、、、。
「こうして元気で居られるって言うのも不思議な物よねえ。」 「そうだなあ。 病気ってやつに無縁だからな 俺たち。」
「そうねえ。 お姉さんも嫌になるくらい元気だもんねえ。」 「あれは別だよ。」
「そう?」 「姉ちゃんは怪獣だからな。」
「だよなあ。 弟に引っ付いてこれまで生きてきたんだもんなあ。」 麻理は転がっている空き缶を思い切り蹴飛ばした。
通りを過ぎると川に出てきました。 河川敷は相変わらず荒れ放題に荒れてますなあ。
「誰も手を出さないのねえ。」 「ここまでなったら誰だって面倒だよ。」
「そうだなあ。 今の役所の人たちじゃあとてもやらないわね。」 「あいつらは遊べればいいんだ。 能無しの脳無しだ。」
「税金泥棒して楽しいかなあ?」 「楽しいから辞めないんじゃないの?」
「そっか。 楽しいのか。」 話しながら川沿いの道を北へ歩いて行きます。
もうすぐショップです。 「ここで曲がろう。」
手前の道を左に曲がると喫茶店 山猫が見えてきました。 「入ろうよ。」
「よしよし。 ここでのんびりしようか。」 俺は麻理と二人で山猫のドアを開けた。
ここのマスターは大の猫好き。 猫みたいな顔をしてコーヒーを入れてくれるんだ。
「久しぶりだねえ。」 「そうですね。 10年ぶりくらいかな。」
麻理も椅子に座って壁に飾られた写真を見詰めてます。 「可愛いねえ。」
「そう? この猫たちさあ5年前に死んじゃったんだ。」 「あらまあ、そうだったの?」
「1匹は風邪をひいちゃってダメだった。 1匹は外に出た所をトラックに踏み潰されたんだ。」 「可哀そうに。」
「だから玄関の脇に供養塔が建ってたわけね?」 「あれはトラックの運転手がお詫びにって建てたんだよ。」
「へえ、珍しいじゃない。」 麻理はコーヒーを飲みながら店内を見回した。
「そういえばマスター、奥さん居たわよね?」 「ああ。 3年前に離婚した。」
「あらまあどうして?」 「不倫してたんだよ。」
「不倫? あの奥さんが?」 「麻理、知ってるのか?」
「知ってるわよ。 店長の妹だったから。」 「奥さん 知ってたの?」
「うん。 店長がいきなり居なくなったからおかしいなと思ってた。 離婚してたのか。」 「分からないもんだなあ。」
「でもよくもまあ、あの体で不倫できたわね?」 「どういうこと?」
「マスターには悪いけどさあ、とても美人とは言えないしドラミちゃんより真ん丸だしお腹は出てるし、、、。 そんなんで捕まえる人が居たの?」 「それがさあ、芸人だったんだよ。 小判とかいうやつ。」
「あいつか。」 俺たちは思わず顔を見合わせたんだ。
「チンチンドンドンとかってうるさいやつだろう?」 「そうそう。 うちの前を通るから気にはなってたんだ。 そしたらうちのやつが、、、。」
「まあ、いいじゃない。 新しい人を捕まえるチャンスが来たのよ。 マスターなら捕まえられるわよ。」 「そうかなあ? 相手は居ないんだけど。」
「居ないって思うから無理なの。 見てくれてる人はちゃんと居るから頑張ってよ。」 「そうだね。」
「俺たちだってさあ、互いに結ばれるとは思わなかったんだから。 ねえ。」 そう言ったら拳骨が飛んできた。
「どういう意味なのよ? 私たちは結ばれるべくして結ばれたの。 余計なことを言わないで。」 「すんましぇん。」
「奥さん ご主人は大切にしなきゃ、、、。」 「いいの。 踏み付けておかないと何をやるか分からないんだから。」
俺たちがのんびりしている所へ客が入ってきた。 「いらっしゃい。」
「今日も来ちゃった。」 その声はショップの片桐さんだ。
「あらあら麻理さんも来てたの?」 「そうよ。 たまの休みだからデートの最中なんだ。」
「へえ、誰と?」 その返事にみんなはぶっ倒れた。
「誰とって? 見りゃ分るでしょう? 旦那よ。」 「え? この人が旦那?」
「片桐さんにも紹介しなかったっけ? 3年くらい前に。」 「忘れた。」
「いいわ。 もう話さないから。」 マスターは床にお湯をばら撒いたらしく大焦りで掃除をしている。
「出ようか。」 「そうね。」
俺たちは片桐さんを残して店を出た。 そして供養塔の前に、、、。
「猫ちゃん 死んじゃったのね。 可愛かったのに、、、。」 手を合わせる麻理の隣で俺も、、、。
「さあ行きましょう。」 目を閉じていた麻理が歩き始めた。 思えば道路も単なるアスファルト舗装じゃなくなったんだよな。
だって30年前、嫌というほど温暖化が騒がれてアスファルト道路の見直しが検討されてきたんだ。 ついでに土管の老朽化も急激にクローズアップされて大問題にされた。
真冬の寒い時期に崩落事故を起こしてトラック運転手が死んでるんだもん。 そりゃあ騒がれるよ。
しかも埋めてからこれまで一切点検してなかったって言うんだから驚くよね。 コンクリートだぜ ボロボロになるのは分かってるんだろう?
それもさあ、その後で調査したら緊急取り換えが必要な土管が25キロ分くらい有ることが分かってさらに大騒ぎになった。
数年以内に取り換えが必要な物を入れると750キロ分なんだとか、、、。 ふざけるんじゃねえよ!
全国あげてこれまで何もしてこなかったことが暴露されちゃったね。 お粗末すぎるよ まったく。
余計なことには湯水のごとくに税金を使いまくるのにこういう大事なことには振り向きもしないんだからなあ。 それでいて「金が無い。」とか「税金を増やす。」とか抜かすんだもん。
役所の人間がどれだけ信用できないかよーーーーーーーーーく分かったよね。
以来、地方交付税交付金の中で一定割合をインフラ整備費用に限定させられて真っ赤になってる知事がどれほど居たか、、、。
しかもそれには付録が付いていた。 了解事項を守らなかった自治体には二度と交付金を支給しないんだって。
もちろん2年ほどの猶予が有ったんだ。 でもやっぱり聞かなかったやつは居た。
その県には今も交付金は支給されていない。 憐れなもんだぜ。
アスファルトも改良に改良が加えられて今は泡沫アスファルトなる物が敷き詰められている。 泡がいっぱい詰まったアスファルトだって。
こいつには空洞がいっぱい有るから雨水も地下に沁み込みやすいんだ。 おかげで暖かい水が川を流れ下ることは無くなった。
そのおかげでフェーン現象も無くなって突然の豪雨も減らせたわけさ。 ついでに言えば室外機を伴うクーラーも30年で全廃された。
室外機が有るとそいつが熱気を四六時中吐き出すから嫌でも気温が上がるんだよ。 自分で自分の首を絞めてたわけだ。
自分で首を絞めておいて「殺されるーーーーー!」って騒いでたわけね。 馬鹿みたいだよ。
温暖化は地球のせいみたいに言ってたけど自分たちでそうなるようにやってたなんてなあ。
それも有ってか今じゃあ温暖化なんて聞かなくなった。 電線も姿を消したしね。
もっと言えば重要な建物以外は木造にすることも法律で定められてしまった。
だからマンションだって木造だぜ。 風が吹いたら怖いけどなあ。

