そのまま眠そうな顔で俺も麻理も仕事に出掛けたんですわ。 そのせいか、机に伏して寝てばかり。
さすがの麻理も仕事を諦めて帰ってきたんだって。 帰りのバスでは降り損ねるし大変だったんだって。
帰ってきた麻理はお払いの準備を始めた。 線香だの塩だの持って部屋の真ん中で考え込んでいる。
「お母さんと会っちゃったのね? あのお母さんならお父さんを呼ぶわねえ。」 仏壇の前であれやこれやと考えを練り直してみる。
俺が帰ってくるまでにはまだまだ時間が有る。 ぼんやりと写真を見詰めていたらいつの間にか寝てしまったらしい。
5時を過ぎて帰ってみると家の中はしんとしている。 「おかしいなあ。 麻理が帰ってるって聞いたんだけど、、、。」
中に入って部屋を探してみる。 すると線香を握ったままで畳の上に寝転がっている麻理を見付けた。
「おいおい、これじゃあ風邪ひくぜ。」 麻理を仰向けにする。
「しばらくやってなかったからなあ、、、。」 そう思った俺は思い切り抱いたんですわ。
「帰ったの?」 「帰ったよ。 静かだからびっくりした。」
「びっくりして抱いちゃったの?」 「それはその、、、。」
「お父さんもまだまだ若いのねえ。 お母さんも羨ましくなったんじゃないの?」 「何でだよ?」
「あんな若い男に抱かれたいわーーーーーーーーって。」 「そうかもね。」
「そうそう。 お払いしなきゃ、、、。」 そう言いながら麻理は線香に火を点けると仏壇に向かいました。
その後ろ姿を見ながら俺はなぜか笑いが込み上げてくるんですわ。 だって母ちゃんにそっくりなんだもん。
丸くなった背中、でかい尻、、、。 そして太い足。
何処からどう見ても母ちゃんにそっくりになっちまった麻理を拝みながら線香の匂いを嗅いでおります。
しばらくして麻理が振り向きました。 そして、、、。
「お父さん ずっとずっと長生きしてね。」 そう言って泣き出したんですわ。
「おいおい、そんなこと言うなよ。 俺はまだ死なねえぞ。」 「そうよね。 まだ死なないわね。 死なないでね。 置いて行かないでね。」
麻理が泣いているのを久しぶりに見た気がする。 麻理をこんなに強く抱いたのも初めてだ。
和之はその頃、九州へ向かうロングランバスを運転中。 姉ちゃんはショップの慰安旅行で沖縄へ行っておりまして二人きりなんです。
新婚当時以来、何年ぶりだろう? 久しぶりに萌えちゃうぞ。
そんなわけで今夜はレストランに行くことにしました。 久しぶりだねえ。
和之の誕生日はいつもレストランだった。 それも成人式以後は無しになって7年。
去年の年の暮れに行ったきり。 しかも今夜は二人だけ。
あの姉ちゃんも居ないんだよ。 ホッとするなあ。
家から30分。 タクシーでやってきました。
30年前、結婚祝いをやってもらったあのレストランです。 今はもう二代目。
「こんばんは。」 「よう、久しぶりだね。 お巡りさん。」
「そんなこと言わないでよ。 緊張するじゃん。」 「いいじゃないですか。 この町じゃあ天然記念物クラスの生き物なんだから。」
シェフはあの岩窟親父の長男さん。 ユニホームが決まってるなあ。
「今夜は金婚式でもするんですか?」 「惜しいなあ。 私たちまだ30年なのよ。」
「えーーー? 30年も続いてるの? 不思議ーーーー。」 「何だよそりゃ?」
テーブルを拭いていたウェイトレスが頓狂な声を挙げました。 「驚き過ぎだってばよ。」
「だって、この間は一週間で別れた夫婦がお別れ会をしたんですよ。 ここで。」 「そうなの? 私たちは死んでも別れないから大丈夫。」
「つまりは腐れ縁ってこと?」 「おいおい、やめとけよ。 麻理の拳骨が、、、。」
「いってえ!」 言ったかいも無く長男さんは拳骨にやられてしまいました。 トントン。
それでもって俺たちはのんびりとした雰囲気のこの店で美味しい料理を食べさせてもらうわけです。 スープとかサラダとか、前菜が出てきました。
「今夜は肉にする? 魚にする?」 「じゃあ魚でお願い。」
「了解しました。」 しばらくすると厨房から美味そうな匂いが漂ってきまして、、、。
麻理はお腹がグーグー鳴っている様子。 うずうずしながらワインを飲んでます。
静かなジャズが聞こえている何とも優雅な店なんですよ。 うーーーん、堪んない。
「お待たせしました。」 いやいや湯気がボッコリ立ってる。
「美味そうだなあ。」 白ワインを飲みながら早速、、、。
麻理も久しぶりの料理に満足そう。 「お姉さん居なくて良かったわ。」
ボリューム満点の夕食に大満足の俺たちが家に帰ってきたのは9時半頃のことでした。
「お腹いっぱいだあ。」 「だよなあ。 サラダに煮物にヨーグルトまで出てくるんだもんなあ。」
「ちょいと一休みしましょうか。」 そう言って居間に飛び込んだ麻理は床に寝転がりました。
その姿がまた何とも艶めかしくて、、、。 「食べちゃいそう。」
「食べてもいいけどお腹には乗らないでね。」 「何で?」
「食べた物をぜーーーんぶ吐き出しちゃうから。」 「それはもったいないな。」
隣に座って麻理のお腹を撫でてみる。 「和之が居た頃みたいねえ。」
「そうだなあ。 このお腹から生まれたんだよなあ。」 何ともふっくらしたお腹ですけど、、、。
「和之も一人前になったわねえ。」 「反面教師が居るから。」
「そうよねえ。 あなたといい、お姉さんといい、見事な反面教師だわ。」 「グ、、、。」
「ダメだった?」 「いやいや、いいよ。 正解過ぎて何とも言えません。」
「ちっとは自覚してたのね。 良かった。」 「あっそう。」
この夜は静かに更けていきます。 何とも平和で何とも言い難い幸せな夜ですわーーーー。
「今夜もたっぷり抱いていいわよ。」 「お腹いっぱいでそれどころじゃないわ。」
「そっか。 それもまた寂しいなあ。」 「何で?」
「どっかの誰かみたいに思い切り襲われたかったなあ。」 「どっかの誰かって、もしかして俺か?」
「さあねえ。 もう遅いから寝ましょう。 お父さん。」 そう言って麻理は俺にキスをしてから寝室へ行った。
翌日は二人揃ってサボってる、、、んじゃなくてお休みです。 姉ちゃんじゃないっつうの。
朝食を済ませてコーヒーを飲みながら向かい合って座っております。 「そういえばさあ、私たちってデートしなかったわよね。」
「そうだったな。 お互いに仕事も忙しかったし姉ちゃんのおかげで毎日会ってたんだし。」 「そうそう。 店長が交番に押し掛けた時には私もハラハラしたわよ。」
「あん時は姉ちゃんもサボりの常習犯だったからなあ。 そりゃあ店長さんも我慢の限界だったろう。」 「店長さあ正義感が強い人だったから、、、。」
「あの顔は今でも忘れないよ。」 「そうよねえ。 私たちも怒らせないように気を使ったから。」
数年は黙って見守ってたんだ。 いつか気が付くだろうって。 でも5年経っても変わらなかった。
我慢しすぎだよなあ。 もうちっと考えてくれりゃよかったのに。
前の通りを行き交う車もすっかり少なくなった。 この辺りもやがては再開発で立ち退きになるからね。
そしたらでかいでかいワーキングステーションが出来るらしい。 もっちろん、あの交番もお役御免になる。
80年近い歴史に幕を下ろすわけだね。 なんか寂しいなあ。
あのお人形さんはどうしたんだってか? 今は俺たちの部屋に飾ってるよ。
しかしまあ細かい所にまで手を入れて作ってあったんだなあ。 服を着替えさせていて麻理が真っ赤になったくらいだから。
あの巡査が残した日記にも書いてあった。 「妹の体を寸分違わずに作ってもらった。」って。
まあ、それはいい。 今日は二人揃ってのんびりする日だ。
「ねえねえお父さん お散歩しない?」 「散歩?」
「うん。 デートしたことが無いんだからお父さんと二人で歩きたくて。」 「珍しいことを言うなあ。」
「だってさあ、この辺りだって散歩したことが無いのよ。」 「じゃあ行くか。」
ってなわけで10時を過ぎた頃から外へ出てブラブラと歩き回ることにしたのであります。
さすがの麻理も仕事を諦めて帰ってきたんだって。 帰りのバスでは降り損ねるし大変だったんだって。
帰ってきた麻理はお払いの準備を始めた。 線香だの塩だの持って部屋の真ん中で考え込んでいる。
「お母さんと会っちゃったのね? あのお母さんならお父さんを呼ぶわねえ。」 仏壇の前であれやこれやと考えを練り直してみる。
俺が帰ってくるまでにはまだまだ時間が有る。 ぼんやりと写真を見詰めていたらいつの間にか寝てしまったらしい。
5時を過ぎて帰ってみると家の中はしんとしている。 「おかしいなあ。 麻理が帰ってるって聞いたんだけど、、、。」
中に入って部屋を探してみる。 すると線香を握ったままで畳の上に寝転がっている麻理を見付けた。
「おいおい、これじゃあ風邪ひくぜ。」 麻理を仰向けにする。
「しばらくやってなかったからなあ、、、。」 そう思った俺は思い切り抱いたんですわ。
「帰ったの?」 「帰ったよ。 静かだからびっくりした。」
「びっくりして抱いちゃったの?」 「それはその、、、。」
「お父さんもまだまだ若いのねえ。 お母さんも羨ましくなったんじゃないの?」 「何でだよ?」
「あんな若い男に抱かれたいわーーーーーーーーって。」 「そうかもね。」
「そうそう。 お払いしなきゃ、、、。」 そう言いながら麻理は線香に火を点けると仏壇に向かいました。
その後ろ姿を見ながら俺はなぜか笑いが込み上げてくるんですわ。 だって母ちゃんにそっくりなんだもん。
丸くなった背中、でかい尻、、、。 そして太い足。
何処からどう見ても母ちゃんにそっくりになっちまった麻理を拝みながら線香の匂いを嗅いでおります。
しばらくして麻理が振り向きました。 そして、、、。
「お父さん ずっとずっと長生きしてね。」 そう言って泣き出したんですわ。
「おいおい、そんなこと言うなよ。 俺はまだ死なねえぞ。」 「そうよね。 まだ死なないわね。 死なないでね。 置いて行かないでね。」
麻理が泣いているのを久しぶりに見た気がする。 麻理をこんなに強く抱いたのも初めてだ。
和之はその頃、九州へ向かうロングランバスを運転中。 姉ちゃんはショップの慰安旅行で沖縄へ行っておりまして二人きりなんです。
新婚当時以来、何年ぶりだろう? 久しぶりに萌えちゃうぞ。
そんなわけで今夜はレストランに行くことにしました。 久しぶりだねえ。
和之の誕生日はいつもレストランだった。 それも成人式以後は無しになって7年。
去年の年の暮れに行ったきり。 しかも今夜は二人だけ。
あの姉ちゃんも居ないんだよ。 ホッとするなあ。
家から30分。 タクシーでやってきました。
30年前、結婚祝いをやってもらったあのレストランです。 今はもう二代目。
「こんばんは。」 「よう、久しぶりだね。 お巡りさん。」
「そんなこと言わないでよ。 緊張するじゃん。」 「いいじゃないですか。 この町じゃあ天然記念物クラスの生き物なんだから。」
シェフはあの岩窟親父の長男さん。 ユニホームが決まってるなあ。
「今夜は金婚式でもするんですか?」 「惜しいなあ。 私たちまだ30年なのよ。」
「えーーー? 30年も続いてるの? 不思議ーーーー。」 「何だよそりゃ?」
テーブルを拭いていたウェイトレスが頓狂な声を挙げました。 「驚き過ぎだってばよ。」
「だって、この間は一週間で別れた夫婦がお別れ会をしたんですよ。 ここで。」 「そうなの? 私たちは死んでも別れないから大丈夫。」
「つまりは腐れ縁ってこと?」 「おいおい、やめとけよ。 麻理の拳骨が、、、。」
「いってえ!」 言ったかいも無く長男さんは拳骨にやられてしまいました。 トントン。
それでもって俺たちはのんびりとした雰囲気のこの店で美味しい料理を食べさせてもらうわけです。 スープとかサラダとか、前菜が出てきました。
「今夜は肉にする? 魚にする?」 「じゃあ魚でお願い。」
「了解しました。」 しばらくすると厨房から美味そうな匂いが漂ってきまして、、、。
麻理はお腹がグーグー鳴っている様子。 うずうずしながらワインを飲んでます。
静かなジャズが聞こえている何とも優雅な店なんですよ。 うーーーん、堪んない。
「お待たせしました。」 いやいや湯気がボッコリ立ってる。
「美味そうだなあ。」 白ワインを飲みながら早速、、、。
麻理も久しぶりの料理に満足そう。 「お姉さん居なくて良かったわ。」
ボリューム満点の夕食に大満足の俺たちが家に帰ってきたのは9時半頃のことでした。
「お腹いっぱいだあ。」 「だよなあ。 サラダに煮物にヨーグルトまで出てくるんだもんなあ。」
「ちょいと一休みしましょうか。」 そう言って居間に飛び込んだ麻理は床に寝転がりました。
その姿がまた何とも艶めかしくて、、、。 「食べちゃいそう。」
「食べてもいいけどお腹には乗らないでね。」 「何で?」
「食べた物をぜーーーんぶ吐き出しちゃうから。」 「それはもったいないな。」
隣に座って麻理のお腹を撫でてみる。 「和之が居た頃みたいねえ。」
「そうだなあ。 このお腹から生まれたんだよなあ。」 何ともふっくらしたお腹ですけど、、、。
「和之も一人前になったわねえ。」 「反面教師が居るから。」
「そうよねえ。 あなたといい、お姉さんといい、見事な反面教師だわ。」 「グ、、、。」
「ダメだった?」 「いやいや、いいよ。 正解過ぎて何とも言えません。」
「ちっとは自覚してたのね。 良かった。」 「あっそう。」
この夜は静かに更けていきます。 何とも平和で何とも言い難い幸せな夜ですわーーーー。
「今夜もたっぷり抱いていいわよ。」 「お腹いっぱいでそれどころじゃないわ。」
「そっか。 それもまた寂しいなあ。」 「何で?」
「どっかの誰かみたいに思い切り襲われたかったなあ。」 「どっかの誰かって、もしかして俺か?」
「さあねえ。 もう遅いから寝ましょう。 お父さん。」 そう言って麻理は俺にキスをしてから寝室へ行った。
翌日は二人揃ってサボってる、、、んじゃなくてお休みです。 姉ちゃんじゃないっつうの。
朝食を済ませてコーヒーを飲みながら向かい合って座っております。 「そういえばさあ、私たちってデートしなかったわよね。」
「そうだったな。 お互いに仕事も忙しかったし姉ちゃんのおかげで毎日会ってたんだし。」 「そうそう。 店長が交番に押し掛けた時には私もハラハラしたわよ。」
「あん時は姉ちゃんもサボりの常習犯だったからなあ。 そりゃあ店長さんも我慢の限界だったろう。」 「店長さあ正義感が強い人だったから、、、。」
「あの顔は今でも忘れないよ。」 「そうよねえ。 私たちも怒らせないように気を使ったから。」
数年は黙って見守ってたんだ。 いつか気が付くだろうって。 でも5年経っても変わらなかった。
我慢しすぎだよなあ。 もうちっと考えてくれりゃよかったのに。
前の通りを行き交う車もすっかり少なくなった。 この辺りもやがては再開発で立ち退きになるからね。
そしたらでかいでかいワーキングステーションが出来るらしい。 もっちろん、あの交番もお役御免になる。
80年近い歴史に幕を下ろすわけだね。 なんか寂しいなあ。
あのお人形さんはどうしたんだってか? 今は俺たちの部屋に飾ってるよ。
しかしまあ細かい所にまで手を入れて作ってあったんだなあ。 服を着替えさせていて麻理が真っ赤になったくらいだから。
あの巡査が残した日記にも書いてあった。 「妹の体を寸分違わずに作ってもらった。」って。
まあ、それはいい。 今日は二人揃ってのんびりする日だ。
「ねえねえお父さん お散歩しない?」 「散歩?」
「うん。 デートしたことが無いんだからお父さんと二人で歩きたくて。」 「珍しいことを言うなあ。」
「だってさあ、この辺りだって散歩したことが無いのよ。」 「じゃあ行くか。」
ってなわけで10時を過ぎた頃から外へ出てブラブラと歩き回ることにしたのであります。

