「今日もよろしくお願いされます。」 俺はあれからもずっとこの交番で勤務している。
近くに在ったはずの保育園も閉園してしまったのに。 ああ寂しい。
 母ちゃんたちもすっかり体が弱くなってしまって施設に預けられている。 あの頃はよく暴れていた父さんもおとなしくなってしまった。
【見る影も無い】とはこんなことを言うんだろう。
 毎朝、バス停でバスを待っていた高校生たちも居なくなった。 代わりに病院へ行くばあさんたちがバスを待っている。
俺は相変わらずママチャリで家から交番まで突っ走っている。 扉を開けると今日も暇な一日が始まるんだ。
 「中野通交番 居ますか?」 「居ますよ。 どうぞ。」
「了解。 安否確認終了。」 何だそりゃ?
 昔に比べれば無線係も丁寧になったもんだなあ。 そりゃそうさ、俺より若いんだもん。
カー、カー。 カラスが飛んでいる。 こいつらだけは変わらないなあ。
 雀がカーって鳴いたら驚くよな。 うん。
「良太 暇でしょう?」 そこへ姉ちゃんがやってきた。
 「何しに来たんだよ?」 「いいじゃんいいじゃん。 遊びに来たのよ。」
「へえ、由美さんがそこで見てるのにか?」 「そんなことな、、、ウワーーーーー!」
姉ちゃんのサボり癖も相変わらずです。 今は塩谷由美さんが目付け役なんだそうで、、、。
 川牟田さんはどうしたんだって? あの後さあ、婚約が破棄されたもんだから付き合ってそのままくっ付いちゃったのよ。
だから俺のお嫁さんになったのだあ。 そして30年。
いやいや、あっという間だねえ。 30年なんて。
そんな物語がこれから始まるわけでーーーーーす。