+湯けむり連続自殺事件

「テレパシーを送ったら送ったで、それに相手が気付かんというのもおかしいぞ。相手をあんな自殺に追い込むほど強力なテレ」

「じ、ん」

「おう」

さすがにここで自粛した魔法使いである。

真輝は一呼吸置く。

「アナタのテレパシーは特殊なんでしょうね。相手へ声を届けることができる。ただし、それは相手の声で。そうなればすべてに合点がいく」

「つまり?」

アルが先を急かした。合いの手がうまいのはアルの特徴。

「人は、たとえば頭の中に声が聞こえたとして、それが自分のものだとしたら、せいぜいが『心の声』――つまり、『自分の思考』の一部だと思うわ。自分の思考が、自分に話しかけてくる。多少不思議な感覚はしても、その声の主が『自分』ではなく第三者であるなんて、まず想像できない」

「そうかっ、自分だけに聞こえる自分の声が、他人からのテレパシーなんて『気付く』わけがないよ!」

賢一が手を打ち、真輝はうなずく。

「そう。同様に、自分からの声は強力な暗示になるわ。死ね、死ね、と自分の声が叫ぶ。それは、自殺願望のようにも思えるでしょうし、自分の本能のようにも思えるわ。そう、自分は自殺しなければいけないと、自分のものではない自分の声に突き動かされる」