+湯けむり連続自殺事件

ガソリンは揮発性が高い。

宙へ漂っていたガソリンに引火し、あっという間に浅野自身も炎へ包まれていく。

見る者を硬直させる、凄絶業火の自殺。

浅野が最後に避けんだのは、

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」

焼かれていく断末魔ではなく、最後まで、自虐的な謝罪の言葉だった。





火が収まり、宿の屋根は一部燃えただけにすんだ。

遺体は処分するまでもなく、ほぼ消し炭になっている。屋根にこびりついた黒いなにかが、もともとは浅野だった。

和幸がちらりと目配せする。

「最後のひとり、だな」

それは、沈痛な面持ちで人々が宿へ戻る中、ぽつねんと残っている上江を見ていた。

アルが声をかけようとする前に――

「アナタ」

上江が口を開いた。

「もう、気付いているのではありませんか?」

それは――真輝へ当てられたもの。

朝日を背にした上江に、真輝は静かに一度、うなずいた。

「ええ。解き明かしてあげるわ」