+湯けむり連続自殺事件

―― わたくしがそなたに、教えてやろう ――

いったい、なにを言っているの。

―― わたくしは鬼ぞ。人ではない。今なにが起こっておるのか、とうに知っておる ――

すでに真相を理解してるというの?

真鬼は、真輝でありながら真輝以上にも以下にもなる。

よいのだろうか、真鬼はまだ本編ですら名前しか出ていない。

―― 些細なことよ ――

と、真鬼は勝手に続けた。

夢の中、真輝は真鬼という自分を、幻影の鏡に見る。

自分と同じ姿の幻影は、しかし口調が古風である。

―― 真輝や、そなたはわたくしと語らい、わたくしを異常と思うるか? ――

そうね、異常だわ。

―― 意味が違う ――



―― そなたは、わたくしがわたくしであると疑わぬ。人はだれとてそうだ。己の脳内に響く己の声は、己の言葉であると疑わぬ。 ――

自分の声を自分の声と信じなければ、なんだと言うの?

―― つまりは、そういうことよ ――

わけのわからないまま、鏡はくるりと背を向ける。

―― あとはそなたの判断だ。かような疑問など、鬼がわずらうまでもなかろう。早ぅ解き明かすがよい ――

髪の影で少女の唇は笑んでいた。