ざくざくざく。ぱき。

月は頭上をついてくる。

「んで、だれだかはわかんのか? そいつ」

「いいえ、そこまでは」

「詰めが甘いねぇ?」

「少なからず、可能性はあの残った三人でしょう。あの霊は自分の存在に気付いてもらうためだけに千年、山に憑いていました」

長……と和幸がぼやく。

「ただ彼女は、だれも気付いてくれないことに苛立ちを覚えることはなく、今、私と会話できた満足感で」

「成仏しましたっていうのかな? うわぉ、とんだ霊だね、最後の会話が君なんて」

「その口、粛正しますよ?」

冗談ではあるが、半分本気。

ざく。ぱきぱき。ざく。

「まあ、気付いてくれないから死んでしまえ、って念を放出してるヤツがいるってのはわかったな」

と和幸が頭の後ろで手を組む。見上げると、月に雲がかかり始めていた。

「けどよ」

ついでにぼやく。

「あの三人、霊でもねぇだろ。全員それぞれ気付いてんじゃねぇか。いったい『なにに』気付けってのかねぇ」