月が煌々輝けば、星のまたたきは消えてしまう。

星のまたたきが輝けば、月の煌めきはどこにもない。

今日の夜は、前者。

暗幕をどこまでも広げた空に、錐で穿ったような満月がぽつり、金色に光っていた。

「あの幹ってヤツ、今日は吠えたりしねぇんだな」

と、和幸が下らない冗談を言う。

「月に吠えるなんて、ある意味ナンセンスだねぇ。むしろ僕は月として崇められたいよ」

「桜庭くんはその辺にしておいてください」

冷静に、先頭を歩く楓がたしなめた。

桜庭という傲慢者は、ほっておくとどこまでも自惚れていく。自慢話は適度に打ち切ってやるのが妥当。

「んで、霊ってどこにいんだろうな?」

と、和幸がキョロキョロしながらぼやく。

月に照らされているとは言え、繁る木々や草むらの影は、真っ黒い霧のように広がっている。

百メートル先は、乱立した木の幹に隠れてしまう。

空をついてくる月も、時おり梢に隠れて細切れにされる。

稀に吹く風が枝葉を揺らし、和幸らの浴衣の袖を揺らし、人間の恐怖心も揺らす。

はずだが、人間の範疇を超えた桜庭、事実の併呑者である和幸、教会の粛正使徒である楓が、動じるわけがなかった。