+湯けむり連続自殺事件

袖をばたつかせ、裾を乱して走った真輝は、五秒かからずに食堂へ突入した。

そこから続きになっている厨房に、血飛沫が爆ぜているのが見える。

血の爆心地は、ちょうどカウンターの陰になっている。

自殺の現場を覗き込んだ真輝は、

「!」

あらゆる意味で、瞠目した。

さきほどの四人のひとり、一ツ橋に状況を説明していた男が、自分の腹に包丁を串刺していた。

無論、自分の手で。たったひとりで。

そばにはだれもいない。

それは間違いなく、彼の意思で握られた、彼の意思で突き刺された包丁。

まさしく、自殺。

と、周囲から紅蓮の粒子が薄れる。

細かな式を組んでいない、即席簡易の魔法陣が、効力を失ったのだ。

同時に、時が歩みを刻み始める。

「――ああああああ!!」

目の前の男の叫喚が、再び響き始める。

が、それこそおかしかった。

「がああっ、あああっ、うああああっ!」

男は、ただ腹を刺しているのではない。

狂ったように、取り憑かれたように、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、自らの腹を突き刺す。