+湯けむり連続自殺事件

「仁！」

「おうよ！」

真輝の合図で、仁が式を起動する。

窓の外、部屋、廊下――旅館一体が、幾何学的に走り回ったラインの紅蓮の光に照らされる。

「定義、『四次元の停止』！」

同時に、柱時計の振り子が、止まった。

「真輝、もって十秒だっ、いけ！」

「言われなくても――!!」

真輝が一気に駆け出す。

十秒だけ時の止まった世界を今、真輝、アル、仁だけが動ける。

叫び声は、真輝の耳がしかと捉えた。

それだけではなく、アルの眷属である蝙蝠が、『こと』の起きた場所をいち早く察知し、金切り声をあげていた。

野々村の『自殺』が起きた瞬間に、現場にはだれもいなかった。

ならば、時間を止めた今、再び起こった『現場』には――？

もしかしたら、ただの自殺を見るだけかもしれない。

が、真輝らはひとつの可能性を挙げていた。

何者かが、自殺をさせている。

つまり現場に、まさしくその時、居合わせれば――

自殺のいきさつが、自殺の行程が、わかる。