五号客室――辰の間は、騒然としていた。

部屋の中央、梁にロープをくくった男が、ぶら下がっているのである。

「はいはい、さあさあ、おどきください」

と、フロントから引っ張って来られた一ツ橋が、ほかの客を追い払う。

和風旅館に、まさかの黒い修道衣姿の男。観衆が驚くのを、しかし一ツ橋は無視した。

部屋にぶら下がる生物のオブジェを見上げ、後ろ手を組む。

「ああ、いやはや、見事に、ふむ。――どう思われますかな、アル刑事」

と、突然振り返った。

野次馬に混ざっていた真輝らの中から、金髪メガネの優男が苦笑する。

「一ツ橋さん、僕は今日オフなんだけど?」

「ですが刑事であることに変わりはない。通報しても、ここに警察がやって来るにはしばしかかるでしょう。ならば、アナタに現場を一任したほうがよいのでは?」

「合理的な理由だねぇ」

言っているアルは、いったいどこから取り出したのか、手袋をきゅ、とはめていた。