風呂上がり、そして旅館と言えば、浴衣である。

浴衣、温泉と言えば、卓球である。

そう定義したのは、誰あろう草薙仁である。

「いくぞ~、受けてみろぉ? 絶対返せない俺のサーブを!」

ラケットを構え、仁が啖呵を切る。

オレンジ色のボールが、ぱこん、と打ち出された。

速度はない。回転もない。

バウンドさせただけの、ただのサーブである。

「こんなへなへなボール私だって!」

相対する上野楓が、きらりとメガネを光らせる。

文系少女でも、ポン、ポンというリズムでやって来たボールくらい簡単に動体視力が追い付く。

「たっ!」

とラケットを一振り。

が、

「え!?」

ボールはラケットに当たった途端、あらぬ方向へすっ飛んでいった。

「あぶっ!?」

べちん、という音を立てて、賢一のひたいに命中。

ヘタレは回避すらできないのである。

「おいおい賢一ぃ、そんぐらい避けろよぉ、俺のボサッと胸元見てっからだぞぉ」

と、仁がパタパタとラケットで顔を扇ぎながら笑う。