桜の舞う夜、彼らは


――しばらくして、ある建物にたどり着いた。

(お店……?)

不思議に思ったけれど、バイクが止まったのでひょいっと飛び降りた。
海斗さんも降りて、バイクを目立たない場所に停めてカバーを掛ける。

到着(とうちゃく)! お疲れ様~」

「ありがとうございました」

なんだか、足元がふわふわする。
はじめてバイクに乗ったけど、中々気持ちよかったなぁ。

余韻(よいん)に浸っていると、海斗さんが「こっち」と私に声を掛ける。お店の扉を開けると、カランカラン、と音がなった。

「伊織、遅かったな――って、海斗か」

カウンターに立っている、少し目付きの悪い男の人がギロリと海斗さんを睨む。

そして、私と目があった。

「……客か?」

男の人は海斗さんを睨むのをやめて、私に声を掛ける。

「あ、いえ、私は」

「この子は鈴。――ナイフ持ちの男二人に襲われてた。伊織の幼馴染らしいし、怪我しちゃったから連れてきたんだっ」

私の声を(さえぎ)って、海斗さんが説明してくれた。

「伊織に幼馴染?」

「そう! 伊織が幼馴染だって言ってたぜ」

「……そうか。
 俺の名前は理希(りき)だ。よろしくな」

「よ、よろしくお願いします」

理希さんと挨拶を交わしたあと、カウンターに座って海斗さんに絆創膏(ばんそうこう)を渡された。
さっきの男に切られた頬に絆創膏を貼って、理希さんが出してくれたジュースをすする。海斗さんは黙ってスマホをいじっている。