桜の舞う夜、彼らは


 優弥と挨拶を交わしたあと、プルルルル……と電話の音がした。

「あ! 俺みたい、ちょっと出るね……」

 優弥はポケットからスマホを出して、耳に当てる。

「うん、俺~。……えっ? それほんと?」

 少し話したあと、優弥が「じゃあね〜」と電話を切った。

「誰からだ?」

静弥(せいや)……弟だよ。ちょっと面倒くさいことになったみたい」

「面倒くさいこと……ですか?」

 私が聞くと、優弥はちらっと伊織を見てニヤリといたずらっ子のような笑みを浮かべた。

(……絶対面倒くさそうな人の顔じゃないな)

 私は優弥の言っていることが一つもわからなかったけど、伊織には理解できたようでピクッと片眉をあげた。

「おい、それは……」

「伊織は亜希(あき)さんからお呼び出しで~す」

 伊織はなにかいいかけたけど、「亜希さん」というワードがでてきた途端(とたん)ぐっと押し黙った。

「……どこ」

「いつものとこ♪」

「……」

「大丈夫だよ? 鈴ちゃんを一旦安全な場所に移動させるだけだから」

「でも」

「それに、傷も手当てしなくちゃでしょ?」

 伊織は難しい顔をしたあと、心配そうに私を見る。

(あ――)

 それだけで、伊織が何を言いたいかわかった。