桜の舞う夜、彼らは


 私は「あはっ」と笑い声を上げた。

「なんだぁ?」

 男が怪訝(けげん)そうな顔で私を見る。
 私はそのまま、作った笑顔でもっと笑う。

「おいっ! なんなんだよ!」

 ほぼ拉致(らち)られている今の状況で笑う不気味さに、男は焦った声を上げている。

「ふっ……おっかしい。まず私を巻き込んだのは貴方達じゃないですか?
 それに、貴方がたをボコボコにしたのは桜華組では? ……もしかして、桜華組が怖いから私を痛めつけようとしたんですか。それはそれは、どうしようもない腰抜けですね」

 私は笑顔で、でも強い口調で、男を煽り続ける。
 すると、予想通り男は怒りに顔を赤くした。

「こっの……! 馬鹿にしやがって!!」

 ドゴッ!

 思いっきりお腹を蹴られ、激痛が走った。

「ゔ、っ……!」

 地面に倒れ込みそうになったが、歯を食いしばって踏ん張る。

「は?」

 男は倒れると思っていたのか、困惑した表情で私を見る。
 それに対して、私はニヤリと笑ってやった。

「……これで、正当防衛です、よっ!」

 私は男の袖を掴んで、右足で相手の足を引っ掛ける。

 ――そして、地面に叩きつけた。

「うぐっ!!」

「……残念でしたね。柔道黒帯なんですよ、私」

 男が痛がっているうちに、手を離して走りだす。
 走るたび、蹴られたお腹がズキズキと痛むけれど、とにかく走る。


 ……段々見慣れた建物が見えてきて、ホッと息をついた。