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「肌綺麗だし、目も人形みたいにくりくりで、唇も小さくてマジで可愛いし!
でも、この泣きボクロによってちょっとセクシーさもあるし!」

「ほんとだ~。でも、なんかどっかで見たことあるような気がすんだよな」

「そんなわけないでしょ!この可愛さがそこらへんにあるわけないじゃん」

学校に向かいながら最近推してる美容系YouTuber“のん”について璃央に熱弁中。
今朝、半年ぶりに再会したときは何を話そうかとあんなに悩んでいた自分のことなんて、すっかり忘れていた。

だけどーー。

学校が近づくにつれ、周囲の視線とささやき声が肌を刺すように突き刺さってくる。

「あの人、かっこいい…!」

「え、誰? あの隣の子。彼女?」

「璃央くんの新しい遊び相手でしょ」

ひそひそとした声が、風に運ばれて耳に届く。
まるでわたしの存在が、特別なものでも場違いなものでもあるかのように。
視線が集まり、わたしを品定めするような目が絡みつく。

遊び相手じゃないし!
かといって、彼女でもないけど…。

胸の奥で言い返しながら俯き加減に歩いていた、そのときーー。

「危ない!」

璃央の鋭い声が響いた瞬間、強く腕を引かれて、気づけば彼の胸の中にいた。
すぐ横を、制服の裾をひるがえして、猛スピードの自転車が駆け抜けていく。
風圧に髪がふわりと舞った。

「優愛、大丈夫?」

いつもよりずっと近い、璃央の声。胸の奥でトクンと音がして、息をのむ。

「うん、ごめん。ありが──」

その瞬間、周囲で「きゃー!」という甲高い悲鳴があちこちで上がった。
校門前はたちまち騒然。
視線がさらに集中し、空気が一気にざわつく。

わたしは我に返り、璃央との距離を取る。

「あ、ありがとう。あっ、学校もう見えてるし、先行くね! じゃっ!」

璃央の「ちょっ、優愛っ・・・」という声も背中に受けながら、わたしは全力で学校の敷地内へ駆け込んだ。
心臓は自転車なんかよりずっと速く跳ねていた。