「優愛・・・」

「なんで・・・」

驚いたように俺を見て、反対側のドアに駆けだそうとする。

その細い腕を、咄嗟に掴んだ。

「優愛、なんで逃げんの?」

「別に逃げてなんか・・・」

優愛はこちらを向かずに答える。

「うそ。今日ずっと俺のこと避けてただろ?」

「・・・だって、昨日のこと話そうとするでしょ」

「うん。ちゃんと話したい」

もう、逃げたくない。

「わたしは、いい」

「・・・なんで?」

「・・・」

たった数秒の沈黙が重かった。
不安で、優愛の表情が見えないことが怖くて、
掴んでいる腕を少し引っ張る。

「優愛、こっち向いて」

「やだ!」

「優愛っ」

「別にいいじゃん、話なんかしなくても」

「それは無理」

「なんでっ!どうせなかったことにしよって言うんでしょ!」

ようやくこちらに向いた優愛の瞳は、怒っているのに不安で怯えているようにも見えた。
俺の臆病さが何度も優愛を傷つけてきたんだと実感する。

実際、なかったことにしようかなんて考えが何度も浮かんでいたから余計に。
だけどーー。

「なかったことには、しない。したくない」

「・・・え?」

少し驚く優愛の目を真っすぐ見つめて告げた。
ずっと隠してきた本当の想い。

「優愛が好きだ」

「うそ・・・」

その一言で、優愛の瞳が大きく揺れた。

「一生言わないつもりだった。
俺みたいなの優愛に相応しくないと思ってたから。
嫌われてもずっと近くにいれたらそれでいいって自分に言い聞かせて。
諦めるために彼女作ったり色んな子と遊んだりして、
そのせいで優愛のこといっぱい傷つけたくせに、
昨日は気持ち抑えられなくて勝手にキスして・・・ほんとごめん」

声が震える。
怖くて優愛の顔が見れない。
それでも伝えたい。伝えなくちゃいけない。
その一心で言葉を続ける。

「最低だし、今更だって分かってる。
ほんとに嫌われても仕方ないけど・・・俺・・・」

「好きだよ、璃央」

ドクンと鼓動が大きく響く。
顔を上げるとこちらを真っすぐ見つめる優愛と目が合った。

「好き、大好き。
初めて会った時からずっと、今も・・・」

泣きながら伝えてくれる言葉が嬉しくて、愛おしくて、苦しくて、
たまらず優愛を抱き寄せた。

「俺も好きだよ。子どもの時からずっと」

優愛が好きだと言ってくれる度に救われてた。
何もないこんな自分を好きになってくれる人がいるんだって。

好きすぎて大切すぎて、大事にしたくて傷つけて、
それなのに、まだ自分を好きだと言ってくれるこの子を今度こそ大切にしたい。

「優愛、これから先もずっと優愛だけ好きでいるって誓う。
だから、俺の彼女になってほしい」

嘘偽りない、俺の正直な気持ち。

「うん」

その返事を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。
もう二度と手放さないと誓いながら、
俺は優愛をもう一度、強く抱きしめた。

「ありがとう、優愛。
こんな俺を、好きになってくれて」