世界の音がすべて遠のいていく。
聞こえるのは、優愛と自分の息遣いだけ。

「・・・んっ」

時々漏れる優愛のかすかな声は、苦しそうなのに甘くて。
もうやめなきゃと思うのに、
その声すら愛しくて、何度も唇を重ねてしまった。

妹なんて一度も思えたことなんかない。

好きだよ、優愛。
子どもの時からずっと。

ちゃんと言葉にして伝えるから、
もう少しこのまま・・・。

ーーその時。

「ただいま~」

玄関から聞こえた声。
優愛のお父さんだ。

「はっ・・・!」

優愛が慌てて俺から飛びのき、視線がぶつかる。
その瞬間、リビングのドアが開いた。

「パ、パパおかえり~!」

声が裏返りながらも笑顔で匡明さんを出迎える優愛。

「お邪魔してます」

逆に俺はまだ頭が回りきっていなくて、
愛想のない挨拶になってしまった。

「おぉ、璃央くん。久しぶり!
そうだ。せっかくだし今日の夜、璃央くんも一緒に外食行く?
ママももうすぐ帰って来るだろうし」

「えっ! いや、璃央バイトだから無理だよね! ね?!」

「そうなのか?」

「はい、すいません」

「って、璃央もうバイト行かないとじゃん!」

「えっ、まだ・・・」

「いやいや、もう結構時間ないよ!ほら、急いで」

「えっ、あぁ」

俺は匡明さんに一礼して、優愛に急かされて玄関に向かう。

「じゃあ、バイト頑張ってね!」

バタン。

ドアを閉められしばらくその場に立ち尽くす。
そして思った。

これはまずい。
この感じは多分、しばらく避けられる。

前に優愛からキスを迫られて拒んだ時がそうだった。
今回はむしろ逆だけど。

この前は優愛からのキスを拒んでおきながら、
今日は気持ちが抑えられなくて自分勝手に優愛にキスした。

「最低だな・・・」

それでも、もう取り消せない。
さっきのキスも、優愛に言ってしまった本音も。

最低なんて今更だろ。

それなら、もう逃げるのはやめる。
ちゃんと、全部伝える。