ーーーーーーー

物音がした。
まだ重たい瞼を無理に開ける。
ぼんやりとした視界の中、見えたのは優愛じゃなかった。

「母さん・・・」

換気扇の下で電子タバコを吸いながら、視線だけこちらに向ける。

「やっと起きた。今月分のお金、まだもらってないんだけど」

「ごめん。すぐ用意する」

重たい体を起こし、用意していた封筒を渡した。
母さんは渡した封筒の中身を確認し、不満をもらす。

「先月より1万円少ないじゃん」

「ごめん」

「あの男が残した借金は自分が返すって、あんたが言い出したんでしょ」

そう自分から言った。
この人を不幸にした原因の一つに俺も入ってしまっているから。

「ごめん」

この人の前では、ただ謝ることしかできない。
チッと舌打ちが耳を刺す。

「口だけなところも父親にそっくり。
その顔の傷だって、どうせ彼氏持ちの女にでも手出してやられたんでしょ。
顔もやることも一緒ね、あのクズと」

何も言い返せない。
幸せになってほしいと願いながら、
自分じゃ相応しくないと言い訳をして適当な女と遊んで、
そのせいで優愛を傷つけて、危険な目に遭わせてしまった。
母さんの言うとおり、口ばかりで無責任な父親と同じ。

「違います!」

声がする方を見ると、重たそうに袋を持った優愛がいた。

「すいません、いきなり。でも、違うんです。
わたしが襲われそうになって、璃央が助けてくれたんです。
体調悪いのに、それでも来てくれたんです。
璃央は・・・」

「優愛、もういいから。
ごめん、母さん。足りない分は来月渡す」

優愛と母さんを一緒に居させたくなかった。
こんな情けない姿、優愛に見られているのも嫌だった。

「まぁいいや。でも・・・優愛ちゃんだっけ?
一つ忠告しといてあげる。
璃央みたいなタイプの男はね、幸せにしてくれないよ?
所詮、顔だけ。本気で好きになっちゃダメよ」

そう言い残して、母さんは出て行った。