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「よしっ、あと1問。俺、ちょっとトイレ」

「うん」

璃央のおかげで、終わる気がしなかった特別課題も残りあと1問。

最後くらい自力で頑張ろ。

そう思いノートに向かった時、テーブルに置かれた璃央のスマホが光った。
綾香先輩からのLINEだった。

“今日、何時くらいに来れそう?”

それは一瞬でわたしの心を曇らせた。

こんな夜遅くに綾華先輩の所、行くんだ。
行ってまたあんな風にキスして、きっとそれ以上も・・・。

そんな考えがよぎった時、部屋のドアが開き璃央が戻ってきた。

「最後の問題、解けた?」

そう尋ねてくる璃央に、わたしは反対に質問した。

「ねぇ、璃央」

「うん? どっか分かんな・・・」

「璃央って綾華先輩のこと好き?」

「え・・・、なに、急に」

突然のことに驚く璃央にそのまま続ける。

「今日の放課後、璃央と綾華先輩がキスしてるの見ちゃって」

「え?」

「だから、好きなのかなって」

少し間があったけど、璃央はスイッチを入れたようにおどけて答えた。

「好きじゃないって。好きとかそういうのむしろ邪魔だし。
優愛だって知ってんだろ?俺が好きでもない相手とキスできるような奴だって」

うん、知ってた。
でも、それならーー。

「わたしでいいじゃん」

「えっ・・・」

「誰でもいいなら、わたしでもいいじゃん。
わたしできるよ、璃央とキス」

わたしだって璃央の遊び相手になりたいわけじゃない。
だけどそれよりも、璃央が他の女の子に触れることの方が嫌だった。

「優愛、何言ってんの?」

お願い、綾華先輩や他の子とキスしたりしないで。
誰でもいいならわたしとだけして。

そう願いながら、わたしはゆっくりと璃央に顔を近づける。
だけど、わたしの唇が触れたのは璃央の手の平だった。

「優愛は、そういうんじゃない・・・」

わたしの中で何かが崩れる音がした。

そして、それと同時に下から玄関のドアが開く音が聞こえた。

「ただいま~」

「お兄、帰って来たね」

自分でも驚くくらい冷静な声だった。