気まずい・・・。

さっきまでは勢いでしゃべっていたけれど、
去年受験生だったわたしは塾にいることが多く
璃央が家に来てても会わなかったり、会っても軽い挨拶を交わすくらいで、
ちゃんと話すのは半年ぶりな気がする。

しかも、散々璃央のことディスった後だし。
ここからどう話を展開したらいいんだ。

そんな気まずい空気を先に破ったのは璃央だった。

「じゃあ、俺下行っとくから、準備して下りてきて」

「うん・・・」

「あっ、それからーー」

部屋から出ていこうとしたところで足を止め、璃央はこちら振り返った。

「優愛が寝てる間に変なこととかしてないから安心して」

「分かってるよ」

「匡人が朝ごはん作ってくれてるから、早く用意してこいよ」

璃央は少し微笑んでそのまま部屋を出て行った。

そんなのわざわざ言われなくても分かってる。

来る者拒まないと言われている璃央だけど、わたしだけは例外。

わたしは初めて会った時からずっと好きだった。

会う度に「好き」と伝えて、
遊びの邪魔になって優しいお兄がちょっと怒るくらいいつも璃央にくっついていた。

だけど、璃央はうざがったりしないで、「好き」と言えば「好き」と返してくれて、
膝の上に乗せてはいつも頭を撫でてくれた。

だから璃央も同じ気持ちだと思っていたけど、
そうじゃないと分かったのはわたしが小学5年生の時。

中学生になった璃央が彼女と帰っているところに出くわしてしまったわたしは、
彼女に妹みたいな子だと紹介された。

璃央が返してくれる「好き」も優しさも、全部、妹みたいな存在として。
恋をしていたのは、わたしだけだった。

璃央なんか大嫌い!

そう思わないと苦しくて、うまく息ができなくて。

そんなわたしにとって璃央の女癖が悪くなっていくのはむしろ好都合だった。
「好き」を「嫌い」で上書きする正当な理由ができたから。

今は璃央のことは本当に嫌い。

なのに、璃央の言葉で、あの時の切ない気持ちを思い出してしまった。

高校生活1日目なのに最悪。
やっぱり、璃央なんて大嫌い。