休み時間。

課題どうしようかな。やっぱり、璃央に・・・。
でも、バイト忙しいだろうし。

そんなことを考えながら廊下を歩いていると、
「優愛ちゃん」と呼び止められた。

聞き慣れない声に誰だろうと振り返ると
そこにいたのは綾華先輩だった。

「優愛ちゃんだよね? 璃央の幼なじみの」

「あっ、はい」

「よかったぁ。璃央がね、放課後、化学準備室に来てほしいって」

「えっ、わたし?」

「うん。じゃあそれだけ。またね!」

そう言って微笑む綾華先輩。

「かわいい・・・」

その完璧な笑顔に思わず見惚れてしまった。

それにしても、なんで璃央がわたしを?

あっ、もしかして真弓から特別課題のこと聞いて教えてくれる感じ?
でも、璃央あんまり人に勉強教えたがらないって。

“優愛は璃央先輩の特別じゃん”

いやいや、特別とかそういうんじゃなくて、
ただ幼なじみを助けてあげようってことだよね。
璃央、優しいから。

変な期待しちゃダメと必死に自分に言い聞かせながら迎えた放課後。
綾華先輩に言われたとおり化学準備室に向かう。

扉を開けようとした瞬間、目に飛び込んできたのは、
キスをする綾華先輩と璃央の姿だった。

「えっ・・・」

信じられない光景に息が止まる。

一度離れたあと、綾華先輩が璃央の頬に触れながら、
「ねぇ、もう一回・・・」と甘い声で囁いた。

そして璃央は応えるように、再び唇を重ねる。

目の前で起きていることなのに、
まるで映画のワンシーンを見ているようで現実味がない。

だけど、ガラス越しに綾華先輩と目が合って、
襲ってきた胸の痛みが現実なのだとわたしに教える。

ようやく動いた足を必死に動かして、
わたしはその場から逃げ出した。

分かっていたはずなのに。
璃央がああいうことしてるって。

だからクズって軽蔑して、最低って罵って。

なのに、目の前で“好きな人”が誰かに触れているのを見た今は、
軽蔑も罵倒する言葉も思い浮かばなくて、ただ苦しかった。