そんな幸せな気持ちのまま迎えた4限目の数学。

あっ、サッカーしてる。

授業中、窓の外を見ると体育でサッカーをする璃央が、ちょうどゴールを決めたところだった。

運動神経もいいとか、ちょっとかっこ良すぎない?

同じチームのみんなとハイタッチを交わす様子は、なんだか微笑ましくてふふっと笑ってしまう。

「随分と楽しそうだな」

恐る恐る顔を上げると、嫌な笑顔を浮かべる先生がいた。

あっ、終わった。

とりあえず、愛想笑いをしてみたけれど、
何の効果もなく、わたしだけ特別課題を出されることになった。

「最悪!ただでさえ数学苦手なのに!」

「いいなぁ、僕も久松先輩がシュート決めるところ見たかったな」

「曽田くん、わたしの話聞いてる?」

「そりゃ曽田くんだって見たかったよね。
当てられてるのにも気づかないくらいかっこ良かったみたいだし、璃央先輩」

「なっ!」

相変わらず璃央中心の曽田くんと、ニヤニヤと煽ってくる真弓。

愚痴ってスッキリするはずが、この2人にしたのは逆効果だったかもしれない。

「全部、璃央のせいだ・・・」

理不尽に全ての責任を璃央に擦り付けようとするわたしに真弓は言った。

「じゃあ、璃央先輩に責任取ってもらえば?」

「は?」

「だって、璃央先輩勉強もできたでしょ?」

「はい。久松先輩は5教科全て学年10位以内。特に数学は学年3位です」

なんで曽田くんがドヤってるのかは置いといて、
頭いいのは知ってたけどバイトあんだけやってそんな順位取ってるなんて。

「すごいな、璃央」

「だから、今回の特別課題、璃央先輩に教えてもらないなよ」

あぁ、そういう“責任”ね。

「でも、久松先輩はあんまり人に勉強教えたがらないって聞きますけど・・・」

ほんと璃央のことならなんでも知ってるな曽田くんは。

「でも、優愛なら大丈夫でしょ」

「なんで?」

「だって優愛は璃央先輩の特別じゃん」

「そっ、そんな訳・・・」

否定の言葉が口から出るよりも先に、胸の奥が熱くなった。
“特別”なんて。
違うって分かってるのに、やっぱり、嬉しかったから。