・・・する前に、目を開けた。

見慣れた天井。
見慣れた自分の部屋。
そして、聞き慣れた鳥の声。

夢、だった。

現実だと錯覚するくらい、あまりにも鮮明で。
胸の鼓動だけが夢の余韻を引きずっている。

「はぁ・・・最悪」

枕に顔をうずめて、大きなため息をついた。

なんて夢を見てるんだ、わたしは。
しかも、よりによってあんなリアルな・・・。

バイトの最終日、ついに認めてしまった璃央への思い。

“璃央が好き”

それを自覚した途端に、こんな夢を見るなんて。
わたしってほんと単純すぎる。

学校へ向かう途中、思い出してまた顔が熱くなる。
風が頬を撫でても、全然冷めない。

そんな時、少し前方に見慣れた背中を見つけた。

璃央。

今までだったら確実に無視して、
なんなら歩くスピードを遅くしたりして
絶対、自分から声かけるなんてことしなかったのに。

「璃っ・・・」

「璃央~!」

――わたしの声をかき消したのは、聞き慣れない高い声だった。

見ると、璃央のすぐ隣に、ゆるく巻かれた髪を揺らす可愛い女の子が立っている。

綾華先輩。
3年で一番可愛いって噂の。

しかも、その綾華先輩が璃央の腕に自分の腕を絡ませて、
とびきりの笑顔を向けていた。

同じ3年生同士で美男美女。

お似合いってこの2人みたいなことを言うのかな。

胸の奥がズキズキと痛む。

「やっぱ、普段しないことなんてするもんじゃないなぁ」

2人のことを見ていたくなくて、
下を向きながら自嘲気味にそんなことをつぶやく。

情けない。なんで声かけようとしたんだろ。

「優愛」

上から降ってきたのは聞き慣れた優しい声。

「璃央」

顔を上げると、さっきまで綾華先輩の隣にいた璃央がいた。

「なんで?」

「なんでって、優愛が呼んだだろ?」

驚くわたしに「もしかして、聞き間違いだった?」と首をかしげる璃央。

「呼んだ・・・」

そう返すと、璃央の顔がふっと安堵の笑みに変わる。

確かに呼んだけど、そうじゃなくて。

「綾華先輩は? さっきまで一緒にいたよね?」

「ん? 綾華になら先行ってもらった」

「なんかごめん。別にそのまま行ってくれてよかったのに」

素直になれない。
ほんとは来てくれて嬉しいのに。

「いやいや、優愛から声かけてくれるなんて超レアなんだから、
優愛優先でしょ」

さらりと言われたその言葉に、胸がトクンと高鳴る。

“優先”。

別に、わたしだからじゃない。
“普段声かけない人が声かけたから”ってだけだと分かってるのに、
胸がじんわりと温かくなる。

璃央の何気ない一言で好きが加速していく。
こんなふうに少し話すだけで、一日が明るくなるなんて。

そのあと、いつもより少しだけ軽い足取りで校門をくぐった。
璃央と並んで歩く数分の時間が幸せで、
教室に着いたあともしばらく胸の奥がふわふわしていた。