「ねえ、璃央、行きたいところあるんだけど」

そう言って、バイト終わりに璃央と一緒に向かったのはとあるラーメン屋。

「ここ・・・」

「お兄がこの前、璃央がここの激辛ラーメンが好きって言ってたから。
お給料もらったんで、今日はわたしがおごります」

ラーメン一杯なんて安いかもしれないけど、
パッと思いついたのがこれだった。

「璃央には今回いっぱい助けてもらったから、何かお礼したくて。
ラーメンなんかじゃ足りないかもしれないけど・・・」

「マジか、ラッキー。
ちょうど腹減ってた」

「そっか、よかった」

店に入ると璃央は慣れたように「激辛ラーメン辛さ5の煮卵トッピング」を注文。
わたしも激辛ラーメンを頼んでみようと思ったけど、
璃央に全力で止められて結局普通に味噌ラーメンを頼んだ。
少し璃央に味見させてもらったけど、
辛いよりもはや痛くて璃央の忠告を聞いていて正解だった。

「優愛ちゃん、ごちそうさま。今までで一番うまかった!」

「それは言い過ぎ。同じラーメンなのに」

「いや、ほんとだって。ありがとな、優愛」

無邪気に笑う璃央を見て、胸がぎゅっと締めつけられた。
ラーメンをおごっただけなのに、こんなに嬉しそうに笑うなんて。

わたしの方が、プレゼントをもらったみたい。

ゴールデンウィークはバイトばかりだったけど、
学びもあったし、いつももらってばっかだった璃央に、
初めて自分のお金で何かしてあげれたし、満足満足♪

そう思っていると少し前を歩いていた璃央が急に立ち止まった。

「どうしたの?」

「優愛、まだ時間ある?」

「うん、あるけど・・・」

「じゃあ、行くぞ」

「えっ、ちょっと!」

璃央はわたしの手を掴み、家とは反対の道へと歩き出した。

「ねぇ、どこ行くの?」

「さあ、どこだろうね~」

そうやってイタズラを仕掛けるみたいに楽しそうに笑う璃央。
やっぱり、今日の璃央は子どもっぽい。

速足で向かっている間、左手はずっと繋がれたままで、
そのことが余計にわたしの鼓動を速くした。

「着いた」

たどり着いたのは、公園の中にある植物園だった。
璃央がチケットを買ってくれて、わたしたちは中へ。

あっ、手、離れちゃった。

さっきまで緊張してたのに、離れると少し寂しい。
でも、目の前に広がる光景が、すぐにその感情を塗り替えた。

「わぁ、キレイ・・・」

数万の電飾を着飾り華麗に咲きほこる花たち。
幻想的な光が、まるでおとぎ話の中の景色みたいだった。

「こういうの、優愛好きかなって」

「うん!好き! 超キレイ~」

「よかった。
せっかくのゴールデンウィークなのに、優愛ずっとバイトだったし」

「そんなの璃央もじゃん」

「俺はいつものことだから。
まぁでも、今年は優愛と一緒にバイトできて楽しかったし
今日はラーメンおごってもらえたし優愛のおかげで過去一いいゴールデンウィークだったかも」

「そんなはずないよ」

だって、わたしのせいで璃央の方が大変だったはず。
それにチケット代だって、わたしのラーメンよりずっと高い。

「わたし、璃央にもらってばっかりじゃん」

今回だけじゃない、今までもずっとそう。

「わたしだって璃央に何かしてあげたいのに」

そんな言葉を、璃央はそっと抱きしめて包み込んだ。

「分かってないなぁ、優愛は」

「何を?」

「俺がどれだけ優愛のこと好きか」

「えっ・・・どういう意味?」

璃央の胸の中で、思わず顔を上げる。

「優愛と一緒にいれるだけで幸せってことだよ」

光の花の中でふわっと柔らかく微笑む璃央は、
人なのを忘れるくらい美しくて言葉を失った。

あの日以来、ずっと言うのも思うのも避けてきた。

必死に抑え込んで気づかないふりしてきたのに。
もう無理みたい。

好き。

璃央が好き。