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「んんっ・・・」

なんか懐かしい夢を見た気がするなと思いながら、
窓から差し込む太陽に背を向けるように寝返りをうつ。

「優愛」

そこには先ほどまで夢で見ていた男の子に
よく似ている綺麗な男の人がこちらを見ていた。
わたしはその整った顔に手を伸ばす。

「かっこいい・・・」

夢の中の男の子より、
髪が伸びているせいか大人びていて色っぽい。

今日は夢、長いな。でも、いい夢。

「あれ? 起きたと思ったけど、まだ寝てる?」

彼はふっと微笑み、
自分の頬を包むわたしの手に自分の手を重ねる。

温かい。

うん? 温かい?

手に感じる温もりに比例して、
わたしの体から血の気が引いていく。

「璃央?!」

「あっ、起きた」

がばっと勢いよく上体を起こし、距離を取る。

「なんで、璃央がいんのよ?!」

「うん? それは・・・」

「璃央、優愛起きた?」

璃央がわたしの質問に答える前に、
ドアの方からお兄が顔を出す。

「ちょっと、お兄。
なんで、璃央がうちにいんの?!」

「璃央がうちにいるのは別に珍しくないだろ」

確かに璃央はお兄が小2の時、連れてきた日からよく遊びに来ていたし、
なんならご飯も一緒に食べて、そのまま泊まっていくことも多かった。

だけど、璃央とお兄が高校生になってからは2人の学校が違ったり、
璃央がバイトで忙しいとかで最近はあまり我が家に来ることなかったのに。

「母さん、夜勤だし、俺も今日生徒会で早く学校行かないとだから」

「だからってなんで璃央に起こさせるの?
可愛い妹が寝てる間に襲われたらとか考えないわけ?!」

「大丈夫。俺、昨日綺麗なお姉さんと楽しんできたから。今日はスッキリ」

グッ!じゃないよ。

「最低!」

昔の誠実で優しい少年はどこへ行ってしまったのか。
中学に上がった璃央は短期間で彼女が変わり、
高校生の今は来るもの拒まず、不特定多数の女の子と関係を持つクズになってしまった。

「いいじゃん。優愛、璃央のこと好き好き言ってたし」

お兄の言葉で一気に顔が熱くなるのが分かった。

「いつの話してんの!今は大嫌い!」

「え~、傷つく」

わざとらしく璃央は胸を押さえて笑っている。
自業自得でしょうが。

「まぁ、とりあえず同じ高校なんだから璃央と一緒だったら道も迷わないしいいだろ」

「いや、徒歩15分だし。迷う距離じゃないし」

「店でトイレ行ったら席戻って来れない奴が何言ってんの」

「うっ・・・」

確かにわたしは超がつく方向音痴だけども・・・。

「あっ、やばっ。俺、そろそろ出るわ。じゃあ、璃央、優愛のこと頼んだ」

「はいよ~。いってらっしゃ~い」

そう言ってお兄は、わたしたち2人を残して家から出て行ってしまった。