そのあとの授業はいつも以上に集中できなくていつもより長く感じて最悪だった。

下校時間になり、璃央に待ち伏せされているかもしれないと
ひやひやしていたけれど璃央の姿はなくてちょっと安心。

このままじゃ良くないのは分かってるけど、
今会ってもきっとさっきと同じ感じできつくあたってしまう。

だけど、このモヤモヤが晴れるわけでもなく、
一人で考えても分からないことだらけで何度も大きなため息が出る。

「はぁ~」

「でかいため息。どうした?」

リビングのソファに沈み込むようにクッションを抱えていたら、
お風呂あがりのお兄がタオルで髪を拭きながら声をかけてきた。

「お兄、璃央の好きな食べ物って知ってる?」

「何、急に」

あまりに唐突な質問に、思わず笑うお兄。

もう!こっちは真剣なのに。

「いいから!知ってる?」

「え~、好きなのは激辛ラーメンとか?」

えっ、なにその新情報。
でも今ほしい情報はそれじゃなくて。

「卵は?」

「卵?あぁ、トッピングとかでよくつけてるし普通に好きなんじゃない」

やっぱり、そうなんだ。

「じゃあ、嫌いな食べ物は?」

「それはトマトでしょ。サラダとかに入ってたら俺の皿に入れてくるし」

やっぱトマトが嫌いなのも本当なんだ。

「でも璃央、わたしのトマトいつも取ってきてたくない?」

小さい時、トマトがあると璃央はわたしのお皿から取っていってた記憶がなんとなくある。
だからそれで好きなんだと思って、いつからか璃央にトマトをあげるようになった。

「それは優愛がトマト嫌いだからでしょ?」

「どういうこと?」

「小さい時、トマト嫌いで残してたら母さんに怒られて泣いてたじゃん。
璃央それ見てたからトマト出ると母さんの目盗んで優愛のトマト取ってたんだと思うよ」

つまり、わたしが怒られて泣かないように代わりに嫌いなトマト食べてくれてたってこと?

それならーー。

「じゃあ、卵は? 璃央、卵嫌いって言ってたよね?」

「あぁ、それは璃央が目玉焼き残してたら
優愛が“卵嫌いなら食べてあげるよ”って言いだしたらからじゃない?
璃央は好きなもの最後に残す派なのに」

あの時の璃央ちょっとかわいそうだったなと思い出し笑いをするお兄。

「そう思ってたなら止めてよ!」

知らなかったとはいえ、最後まで大事に残すくらい好きだったの取っちゃうなんて最低じゃんわたし。
しかも、ずっと気づかず、つい最近まで好物を搾取していたなんて・・・。

「いや、俺も止めようと思ったけど、
もらった目玉焼き美味しそうに食べる優愛見て、璃央すごい嬉しそうに笑うから。
逆に止めない方がいいかなって」

「なに、それ・・・」

いつも目玉焼きを食べるわたしを見て璃央が笑う度、
子どもだってバカにしてるんだろうななんて少し腹立たしかった。

そこにそんな優しさがあったなんて、まったく気づきもせずに。

「璃央そういうとこあるからな~
自分より相手を優先しちゃうみたいな。優愛に関しては特に」

胸の奥が、きゅうっと締めつけられる。

言われてみれば、思い当たることばかりなのに。
言われるまで、なにも気づけなかった自分が悔しい。

「ねぇ、お兄 お願いがあるんだけど」

「ん?」