ランチ会初めての日。
わたしたちの目の前には二重の重箱が広げられ、
一段目には、紫蘇、鮭、わかめ、おかか――彩り豊かな4種類のおにぎりがぎっしりと並び、
もう一段には、カリッと揚がった唐揚げに、タコさんウインナーやミートボール、
そして花型にくり抜かれた人参や、れんこんの煮物が、まるでお店のようにきれいに詰められていた。
「俺ら今から花見だっけ?」と璃央がぽつりとつぶやくほど、
高校生のお昼というより、まさにお花見か運動会レベルの豪華さ。
毎日でもお作りします!と意気込む曽田くんに、さすがに申し訳ないと璃央は断ったけれど、
璃央の栄養の偏りを心配する曽田くんはなかなか折れず、
結局、通常の高校生レベルのお弁当ならというところで落ち着いた。
そして今日で5回目の開催となる。
「今日は何作ってきたの?」
最初は半分仕方なく開いたランチ会だけど、今では結構楽しみだったりする。
その一つが曽田くんの手作りお弁当。
初回ほどの豪華さはないけれど、栄養だけでなく彩りや見栄えにも気を遣われている。
メイクだけじゃなくて、料理動画も配信すればいいのに。
そう思ってしまうほど、美味しくて映えるお弁当なのだ。
ワクワク待ち構えていると「今日はーー」と言って曽田くんがお弁当箱をパカっと開ける。
中からはつやつやのハンバーグとその上には目玉焼き。
そのまわりには、緑のブロッコリー、オレンジの人参、黄色のさつまいもが色鮮やかに並べられていて、
今日のお弁当も美しい映え弁当だった。
でもーー。
「あっ・・・」
目玉焼き。
璃央が嫌いな食べ物。
言っといてあげればよかったなと心の中で反省していると、
曽田くんは思いがけないことを口にした。
「初めて一緒にご飯食べた時、ハンバーグ定食に目玉焼きトッピングされてたのでお好きかなと。
逆にトマトは嫌いっておっしゃてたので彩りはプチトマトの代わりに人参を入れました」
え?璃央が目玉焼きをトッピング?
しかも、トマトは嫌い?
どういうこと?と思って璃央の方を見ると、
気まずそうな璃央と目が合い、その瞬間、璃央が目を逸らした。
その反応、本当ってこと?
なかなか手を付けようとしない璃央を見て
曽田くんが不安そうに覗き込む。
「もしかして、嫌いなもの入ってましたか?」
「ううん、ありがとな。すごくうまそう」
そう言って、お箸でハンバーグをひと口、続いて目玉焼きをすくって口に運ぶ。
あっ、目玉焼き食べた。
わたしに毎回くれるほど、嫌いだと思っていた目玉焼きを
璃央はどんどん口に運び、気づいたら完食していた。
目玉焼き食べれたんだ。
食べれたどころか好きだったなんて。
でも、だったらなんで言ってくれなかったの?
みんなの会話の輪に入りながらも、
その疑問だけがぐるぐると頭の中を回っていた。
結局、答えが出ないままそろそろ教室に戻ろうとなった時、
璃央に腕をつかまれた。
「ごめん、ちょっと優愛に話したいことあるから先戻っててくんない?」
曽田くんは「分かりました」と言って少し怯えながら真弓と屋上を後にした。
2人きりになった屋上に、静かな風が吹き抜けた。
でも、璃央は何も言わない。
だから、わたしが口を開いた。
「璃央、目玉焼き食べれたんだね?」
「うん」
「好きなの?」
「・・・まぁ、それなりに」
たった一言ずつなのに、妙に重く感じる。
「じゃあ、トマトが嫌いなのも本当なんだ」
「・・・ごめん」
視線を伏せて弱々しく謝る璃央の態度が、
逆にわたしをイラ立たせる。
「なんで璃央が謝るの?
どっちかっていうとわたしでしょ、謝るとしたら。
ずっと璃央に嫌いなものあげて、好きなもの取ってたんだから」
自分でも驚くくらい、皮肉っぽくて尖った声。
璃央はすぐに「いや、俺が言わなかったから」と返してきた。
そう、璃央は言ってくれなかった。
昔に1回ご飯食べて最近ちょっと会うようになっただけの曽田くんも知ってたのに。
璃央の嘘のおかげで数年間いい思いができたんだから
「そうだったんだ」と笑って終わらせればいいのに、なぜかそれができないのはきっとこれが理由。
悔しい。
璃央のこと、曽田くんより知らなかったのが
なんだかとても悔しいと思ってしまった。
だけど、そんなこと言えるはずもなくて
ちょうど鳴った予鈴を言い訳にしてわたしは教室に戻った。
わたしたちの目の前には二重の重箱が広げられ、
一段目には、紫蘇、鮭、わかめ、おかか――彩り豊かな4種類のおにぎりがぎっしりと並び、
もう一段には、カリッと揚がった唐揚げに、タコさんウインナーやミートボール、
そして花型にくり抜かれた人参や、れんこんの煮物が、まるでお店のようにきれいに詰められていた。
「俺ら今から花見だっけ?」と璃央がぽつりとつぶやくほど、
高校生のお昼というより、まさにお花見か運動会レベルの豪華さ。
毎日でもお作りします!と意気込む曽田くんに、さすがに申し訳ないと璃央は断ったけれど、
璃央の栄養の偏りを心配する曽田くんはなかなか折れず、
結局、通常の高校生レベルのお弁当ならというところで落ち着いた。
そして今日で5回目の開催となる。
「今日は何作ってきたの?」
最初は半分仕方なく開いたランチ会だけど、今では結構楽しみだったりする。
その一つが曽田くんの手作りお弁当。
初回ほどの豪華さはないけれど、栄養だけでなく彩りや見栄えにも気を遣われている。
メイクだけじゃなくて、料理動画も配信すればいいのに。
そう思ってしまうほど、美味しくて映えるお弁当なのだ。
ワクワク待ち構えていると「今日はーー」と言って曽田くんがお弁当箱をパカっと開ける。
中からはつやつやのハンバーグとその上には目玉焼き。
そのまわりには、緑のブロッコリー、オレンジの人参、黄色のさつまいもが色鮮やかに並べられていて、
今日のお弁当も美しい映え弁当だった。
でもーー。
「あっ・・・」
目玉焼き。
璃央が嫌いな食べ物。
言っといてあげればよかったなと心の中で反省していると、
曽田くんは思いがけないことを口にした。
「初めて一緒にご飯食べた時、ハンバーグ定食に目玉焼きトッピングされてたのでお好きかなと。
逆にトマトは嫌いっておっしゃてたので彩りはプチトマトの代わりに人参を入れました」
え?璃央が目玉焼きをトッピング?
しかも、トマトは嫌い?
どういうこと?と思って璃央の方を見ると、
気まずそうな璃央と目が合い、その瞬間、璃央が目を逸らした。
その反応、本当ってこと?
なかなか手を付けようとしない璃央を見て
曽田くんが不安そうに覗き込む。
「もしかして、嫌いなもの入ってましたか?」
「ううん、ありがとな。すごくうまそう」
そう言って、お箸でハンバーグをひと口、続いて目玉焼きをすくって口に運ぶ。
あっ、目玉焼き食べた。
わたしに毎回くれるほど、嫌いだと思っていた目玉焼きを
璃央はどんどん口に運び、気づいたら完食していた。
目玉焼き食べれたんだ。
食べれたどころか好きだったなんて。
でも、だったらなんで言ってくれなかったの?
みんなの会話の輪に入りながらも、
その疑問だけがぐるぐると頭の中を回っていた。
結局、答えが出ないままそろそろ教室に戻ろうとなった時、
璃央に腕をつかまれた。
「ごめん、ちょっと優愛に話したいことあるから先戻っててくんない?」
曽田くんは「分かりました」と言って少し怯えながら真弓と屋上を後にした。
2人きりになった屋上に、静かな風が吹き抜けた。
でも、璃央は何も言わない。
だから、わたしが口を開いた。
「璃央、目玉焼き食べれたんだね?」
「うん」
「好きなの?」
「・・・まぁ、それなりに」
たった一言ずつなのに、妙に重く感じる。
「じゃあ、トマトが嫌いなのも本当なんだ」
「・・・ごめん」
視線を伏せて弱々しく謝る璃央の態度が、
逆にわたしをイラ立たせる。
「なんで璃央が謝るの?
どっちかっていうとわたしでしょ、謝るとしたら。
ずっと璃央に嫌いなものあげて、好きなもの取ってたんだから」
自分でも驚くくらい、皮肉っぽくて尖った声。
璃央はすぐに「いや、俺が言わなかったから」と返してきた。
そう、璃央は言ってくれなかった。
昔に1回ご飯食べて最近ちょっと会うようになっただけの曽田くんも知ってたのに。
璃央の嘘のおかげで数年間いい思いができたんだから
「そうだったんだ」と笑って終わらせればいいのに、なぜかそれができないのはきっとこれが理由。
悔しい。
璃央のこと、曽田くんより知らなかったのが
なんだかとても悔しいと思ってしまった。
だけど、そんなこと言えるはずもなくて
ちょうど鳴った予鈴を言い訳にしてわたしは教室に戻った。

