桜の花びらはすっかり姿を消し、校庭の木々は青々とした若葉を揺らしている。
もうすぐ4月も終わり。
昼休みの陽射しはだいぶあたたかくなってきた。

そんな中、わたしと曽田くんは、いつものように屋上へ向かった。

そこには先に真弓が待っていて、こっちこっちと手招きしている。

「お待たせ。あれ? 璃央は今日もまだ?」

「人気者だから巻くの苦労してるんじゃない?」

「かもね」と返したわたしの後ろにふと真弓の視線が移る。

「ってか曽田く~ん、どうしたの、優愛の後ろに隠れて?」

ニヤニヤとからかうような口調で、真弓が曽田くんに声をかける。
その視線に気づいた曽田くんは、ぴくりと肩をすくめて小さくうろたえる。

「い、いえ……あの……」

「なに~、まさか、わたしのこと怖いの~?」

身長の高い真弓は、曽田くんとほとんど目線が変わらない。
その距離感のまま、じりじりと間合いを詰めていく姿はもはや“狩り”のようだった。

「そ、そんなことないです……」

曽田くんは小声で否定してるけど、どう見てもビビっている。

もう、真弓ったら。

見かねてわたしが助けに入る。

「真弓、曽田くんをいじめないで」

「え〜? だって反応可愛いすぎるんだもん。いじめたくなっちゃうじゃん?」

「ひっ!」

イケメンの中でも、どちらかというと璃央みたいなかっこいいタイプが好みだったはずの真弓だが、どうやら曽田くんが新しい扉を開いてしまったようだ。

ショートカットにしてから、ますますクールビューティー感が増した真弓だけど、
この“圧強めコミュニケーション”が災いして、これまで彼氏ができたことはない。

・・・まあ、彼氏いない歴はわたしも一緒なんだけど。

そうこうしていると「ごめん、遅くなった」と璃央がやって来た。

その瞬間、曽田くんの顔がふっと明るくなる。

まるで曇り空が一気に晴れたみたいに、表情がぱあっと輝いた。

「先、食べててくれてよかったのに」

璃央がそう言うと、すかさず曽田くんが反論する。

「ダメですよ! これは久松先輩が主役みたいなもんなんですから!」

少し前まで真弓におどおどしていた曽田くんとは思えない堂々とした口ぶりに、
思わずわたしたちは顔を見合わせて笑ってしまった。

・・・まぁ、ちょっと前までは、璃央に対しても緊張して目すら合わせられてなかったんだけど。
でも、この“屋上ランチ会”が定期的に開催されるようになってからは、
曽田くんもずいぶん璃央に慣れたみたい。

「主役って」と璃央は笑うけど、
あながち間違いではない。

そもそも、なぜこのランチ会が開かれるようになったかというと――
数週間前に遡る。