ーーーーーーー
「今日はありがとうございました」
曽田くんが深くお辞儀をすると、璃央が少し照れくさそうに笑う。
「いや、こっちこそ。
むしろなんか悪いな。1回飯おごったくらいで、こんなのもらって」
「いえ、ほんの気持ちなので」
曽田くんがそう返すと、わたしにも小さく笑って会釈してくれる。
「田嶋さんも、今日はありがとね」
その瞬間、ふわりと春風が吹き抜けて、
曽田くんの重たげな前髪が持ち上がる。
隠れていた瞳は、少し赤くなっていたけれど、
澄んでいて、とても綺麗だった。
やがて彼は、自転車のペダルに足をかけ、
もう一度こちらに向かって、丁寧にお辞儀をする。
そして、わたしたちとは逆方向へ、静かに走り出していった。
「俺らも帰るか」
「そうだね」
昨日はあんなに璃央と帰ることを拒否していたのに、
なんだか今日はこの人の隣を歩けるのが少し誇らしい。
「曽田くん璃央のこと話す時、ヒーローの話するみたいだったよ」
「え~、プレッシャーだわ。俺そんなすごい奴じゃないのに」
「・・・え、意外」
もっとドヤ顔で調子に乗るかと思ってた。
「なに、俺ってそんなに自信ありそうに見える?」
「うーん、自信があるというか……」
顔も良くてスタイルもいい。
頭も良くて、友達も多くて。
彼女はいないけど、女の子にも困ってなさそうでーー。
「コンプレックスが、見当たらないんだよね」
「ははっ、マジか。そう見えてるなら得してるな」
「璃央にもあるの? そういうの――」
と聞きかけたところで「そういえばさ――」と、璃央が話題を変えてきた。
「なに?」
「優愛が好きなYouTuber、のんちゃんっているじゃん」
「うん、いるけど・・・」
のんちゃんが、どうしたの?
「なんか、どっかで見たことあると思ったらさ。あれ、“望”だったんだな」
・・・・・・。
「・・・・・・は?」
「え、気づいてなかった?」
璃央の一言で思考が一時停止する。
でも次の瞬間には、脳内フル稼働。
曽田くんの顔を順々に思い出していく――
小さくて可愛い唇。高い鼻筋。
そして、一瞬だけ見えたくりくりした目。
…それから、左目の下の涙ボクロ――。
曽田くんとのんちゃんが同一人物なんて、ありえない。
でも、今日の曽田くんと、メイク前ののんちゃんの顔のパーツが、
記憶の中でひとつずつ重なっていく。
「えええええええーーーーーー!!!!」
頭の中でサイレンが鳴る。
ありえない。でも、間違いない。
曽田くんが、まさかの・・・推し本人だなんて。
でも、もしそうだとしたら曽田くんがのんちゃんになるきっかけ、
それはきっと璃央だ。
つまり璃央はわたしに“推し”という最高の存在をくれた恩人でもあるってことで――
「うおっ!」
思わず、璃央に思いっきり抱きついていた。
「璃央ありがとう!もう大好き!!」
言葉が口からこぼれるようにあふれた。
いつもなら絶対に言わない、そんなストレートな気持ち。
でも今だけは、言わずにはいられなかった。
見上げた璃央の顔は、ちょうど西日が差し込んでいて逆光になってよく見えなかったけど、
少しだけ驚いているように見えた。
そして、ほんの少し照れてるようにも。
「今日はありがとうございました」
曽田くんが深くお辞儀をすると、璃央が少し照れくさそうに笑う。
「いや、こっちこそ。
むしろなんか悪いな。1回飯おごったくらいで、こんなのもらって」
「いえ、ほんの気持ちなので」
曽田くんがそう返すと、わたしにも小さく笑って会釈してくれる。
「田嶋さんも、今日はありがとね」
その瞬間、ふわりと春風が吹き抜けて、
曽田くんの重たげな前髪が持ち上がる。
隠れていた瞳は、少し赤くなっていたけれど、
澄んでいて、とても綺麗だった。
やがて彼は、自転車のペダルに足をかけ、
もう一度こちらに向かって、丁寧にお辞儀をする。
そして、わたしたちとは逆方向へ、静かに走り出していった。
「俺らも帰るか」
「そうだね」
昨日はあんなに璃央と帰ることを拒否していたのに、
なんだか今日はこの人の隣を歩けるのが少し誇らしい。
「曽田くん璃央のこと話す時、ヒーローの話するみたいだったよ」
「え~、プレッシャーだわ。俺そんなすごい奴じゃないのに」
「・・・え、意外」
もっとドヤ顔で調子に乗るかと思ってた。
「なに、俺ってそんなに自信ありそうに見える?」
「うーん、自信があるというか……」
顔も良くてスタイルもいい。
頭も良くて、友達も多くて。
彼女はいないけど、女の子にも困ってなさそうでーー。
「コンプレックスが、見当たらないんだよね」
「ははっ、マジか。そう見えてるなら得してるな」
「璃央にもあるの? そういうの――」
と聞きかけたところで「そういえばさ――」と、璃央が話題を変えてきた。
「なに?」
「優愛が好きなYouTuber、のんちゃんっているじゃん」
「うん、いるけど・・・」
のんちゃんが、どうしたの?
「なんか、どっかで見たことあると思ったらさ。あれ、“望”だったんだな」
・・・・・・。
「・・・・・・は?」
「え、気づいてなかった?」
璃央の一言で思考が一時停止する。
でも次の瞬間には、脳内フル稼働。
曽田くんの顔を順々に思い出していく――
小さくて可愛い唇。高い鼻筋。
そして、一瞬だけ見えたくりくりした目。
…それから、左目の下の涙ボクロ――。
曽田くんとのんちゃんが同一人物なんて、ありえない。
でも、今日の曽田くんと、メイク前ののんちゃんの顔のパーツが、
記憶の中でひとつずつ重なっていく。
「えええええええーーーーーー!!!!」
頭の中でサイレンが鳴る。
ありえない。でも、間違いない。
曽田くんが、まさかの・・・推し本人だなんて。
でも、もしそうだとしたら曽田くんがのんちゃんになるきっかけ、
それはきっと璃央だ。
つまり璃央はわたしに“推し”という最高の存在をくれた恩人でもあるってことで――
「うおっ!」
思わず、璃央に思いっきり抱きついていた。
「璃央ありがとう!もう大好き!!」
言葉が口からこぼれるようにあふれた。
いつもなら絶対に言わない、そんなストレートな気持ち。
でも今だけは、言わずにはいられなかった。
見上げた璃央の顔は、ちょうど西日が差し込んでいて逆光になってよく見えなかったけど、
少しだけ驚いているように見えた。
そして、ほんの少し照れてるようにも。

