話しを聞くと、曽田くんは中学の時、
太り気味でクラスの男子からいじめを受けていたらしい。

「別に殴る蹴るの暴力振るわれるとかはなかったし、
みんなもいじめてるっていうより、
ただのイジりだったのかもしれないんだけど、
僕的にはしんどいこともあって・・・」

いや、そう思わせてる時点でいじめでしょ。

曽田くんのこと、まだ全然知らないけれど、
自分をいじめてきた奴らのことをできる限り悪く言わないようにするその優しさが
余計にいじめの標的になりやすかったのだろうということは想像できた。

「ファミレスにみんなでよく行ってたんだけど、
そのお金僕が支払うのが知らない間にルールみたいになっちゃっててね、
さすがにきついって言ったんだけど、みんなは聞いてくれなくて」


ははっと無理に笑いながら話す曽田くんを見て、胸が痛くなる。

「でも!それを久松先輩が助けてくれたんだ!」

まるで小さな子どもが大好きなヒーローについて話すかのように顔を輝かせて言った。

曽田くんたちのレジを担当した璃央は違和感に気づき、
警察や学校に通報すると言って脅し、全員に支払わせたのだそう。

「へぇ、かっこいいことするじゃん璃央」

「そうなんだよ!もうほんとにかっこよくて!
別の日にお礼言いに行ったらもうバイト終わるからって
ご飯一緒に食べながら話も聞いてくれてさ!
しかも、そのご飯代もおごってくれて。こんなかっこいい人いる?!」

「う、うん。そうだね・・・」

大好きなヒーローについて話す子どもから、
推しへの愛を爆発させるオタクのように話す曽田くんに圧倒されていると、
曽田くんもそれに気づいたのか少し恥ずかしそうに乗り出していた身を元の位置に戻した。

「それから久松先輩は僕の憧れで。
でも、中身はなかなか変えられないからせめて見た目だけでもと思って。
あっ、もちろん見た目も久松先輩レベルになるのは無理って分かってるんだけど、
ちょっとでも近づけたらなと思って、ダイエットしたり美容系の動画見たりして
変わろうと努力することができたんだ」

そう言われると、璃央も一時期金髪マッシュの時があった。

きっと、曽田くんと璃央はその頃に出会ったんだろう。

璃央の行動がかっこいいのはもちろんそうだけど、
その時の人や環境のことを恨むでもなく、自分を変えようと努力して
イケメンハンターの真弓にイケメンオーラが出ていると言わしめるほどの変貌を遂げた曽田くんも相当すごい人だ。

そう感心していると、曽田くんはわたしに紙袋を差し出してきた。

「ん? なにこれ?」

「あの、これ久松先輩に渡してくれないかな?
あの時のお礼がしたくて」

なるほど。それで、璃央と幼なじみと聞いたわたしに話しかけてきたのか。
でも、それなら・・・。

「わたしからじゃなくて、自分で渡した方がいいんじゃない?」

わたしの言葉に曽田くんは首を横に振る。

「きっと僕のことなんて覚えてないし。
僕からだってことも言わなくていいから」

そう言って少し寂しそうに笑う曽田くん。
そんな顔を見るとわたしまでなんだか切ない気持ちになってしまう。

「覚えてなかったら、今みたいに話せばいいじゃん!
そしたらきっと思い出してくれるよ!」

もし思い出さなかったとしても、曽田くんの思いを無下に扱うような真似、璃央なら絶対にしない。

わたしは渋る曽田くんを無視して、放課後、璃央を呼び出した。