「優愛、今日リップ塗ってる?」

「うん・・・」

璃央はわたしのお願いを聞き入れてくれたようで、
今朝、迎えには来なかった。

おかげで今日は平和に真弓と登校ができている。

が、リップのことについては、
あまり触れてほしくはなかった。

自然と唇に馴染む桜色のリップティントは、
スクールメイクにちょうどいい。

問題は、塗る時に毎回璃央に塗られた時のことを思い出して、
唇だけでなく頬まで血色良く染まってしまうことだ。

まずい、真弓にリップのことを聞かれたせいで
また思い出してしまった。

「色、かわいい。どこの買ったの?」

「どこのかな~?もらい物だからちょっと分かんない」

どこかのコスメブランドとかではなく
恐らくギフトショップのリップティントなので、
どこのと言われても調べないと分からない。

だけど、可愛くて使い勝手もよく、何より嬉しかったから
これがどこのかなんて気にもならなかった。

「え~、いいな。匡人先輩から?」

「いや・・・」

「えっ、もしかして璃央先輩」

「う、うん・・・」

普段、璃央のことをクズ呼ばわりしているせいか、
なぜか璃央からもらったとは言うのは気が引ける。

「なにそれ、羨ましすぎるんだけど!
えっ、送り迎えしてもらって、プレゼントももらっておきながら、
明日から迎えに来んなって言ったの?!」

「うっ。いや、そこまでは・・・」

確かにそう言われるとひどい気もするけど・・・。

「同じことでしょ」

「だって、璃央と関わると学校生活に支障きたすし・・・」

昨日だけでも、璃央の彼女やら、遊び相手やらと噂の的にされたのだから、
毎日登下校一緒になんてしたら、どうなることやら。
考えただけでも恐ろしい。

だけど、何より恐ろしいのはそんな相手をまた好きになってしまうこと。

多少、ひどい態度をとったとしても、璃央とは極力関わらないことがやはり最適解だ。

「優しくて優秀なお兄ちゃんと、入学祝いくれるイケメン幼なじみに
金髪美少年まで。あんた前世でどんな徳積んだの」

そんなわたしの気持ちを知らない真弓から見たら、
というかわたし以外の人から見たらなんて贅沢な話だと思われるのは仕方ない。

ん? あれ、金髪美少年?

「えっ、金髪美少年って誰?」

「優愛の前の席の子」

確かに、言われてみれば目を引く綺麗な金髪だった。
でも、重ためのマッシュのせいかあの一瞬じゃ顔はよく見えなかった。

そう言うと真弓は「いやあれは間違いなく美少年だね。そういうオーラが出てる」と
胡散臭い占い師みたいなことを言ってきた。

いやいや、オーラって。

とはいえ、そんなことを言われると気になってしまうのが人というもの。