付き合う——なんて言葉、昔はもっと重たく感じてた。
でも、今のわたしはなんだか、すごく軽やかだった。
高尾の告白から数日。
周囲の冷やかしは止まらない。
「ムギ、体育祭の公開プロポーズどうだった〜?」
「高尾ってあんなキャラだったっけ?」「付き合うの?ねぇねぇどうなの?」
ムギは笑いながら答える。
「まぁねぇ……どうしよっかな〜♡」
この余裕。高校生のときには絶対に持てなかった。
若さのキラキラと、大人のずるさの間でバランスを取っている感覚。
⸻
放課後。
校門で待ってた高尾と自転車を押しながら歩く。
「なあ、ムギ。あれからずっと考えてるんだけど……その、オレのこと……」
「ん? なに?」
「付き合ってくれるってことで、いいのかな?」
わたしは一瞬、空を見上げる。
夕焼けの色が、なんか昔と違って見える。
(そうか、これが“戻ってきた”青春か)
「うん。」
高尾の目がまんまるになって、すぐに破顔する。
「まじで!?うおおおおおおぉおお!!!」
「ちょ、うるさい!公道!」
「ごめんごめん、でも、うれしすぎて!青春っぽいだろ!?だろ!?」
「うん、うん。……ほんとに、ぽいね」
⸻
夜、布団の中。
付き合ってる実感がまだふわふわしてて、
でも、わたしの中の“過去の後悔”が、ひとつ溶けたような気がしていた。
(高尾はバカだけど……バカって愛しいな)
そう思える余裕が、わたしにある。
きっと、母になって、妻になって、泣いて笑って、怒ってきたから——
今のわたしは、昔のわたしより少しだけ、
ちゃんと人を好きになれるようになってる。



