「……ん……?」
見慣れた天井、障子、うっすら射し込む朝日。
目を覚ましたムギは、ぼんやりとした頭で辺りを見渡す。
(……実家の……和室……?)
まるでタイムスリップしてきた日の朝とそっくりで、
一瞬「またあの日に戻った?」と錯覚した。
けれど、そのとき。
「ママ!おはよう!!」
バタバタバタッと小さな足音。
そして、襖が勢いよく開かれる。
「――マナト……!」
そこには、間違いなく、愛しい息子の姿があった。
「ママどうしたの?ねえ、泣いてるの?」
ムギは思わずマナトを抱きしめた。
ぐしゃぐしゃに笑って、ぐしゃぐしゃに泣きながら、
何度も何度も名前を呼んだ。
「マナト、マナト、マナト……!会いたかった……!ごめんね……!」
あたたかい。
ちゃんとここにいる。
未来は、消えてなかった――。
***
「ピンポーン」
インターホンの音に、はっと顔を上げる。
「……あら、ふみくん!ムギまだ寝てるから、よかったら和室行って」
廊下から聞こえる母の声に、ムギの心臓がどくんと跳ねた。
(ふみくん!?)
嘘みたいな展開に、思わず手の中のマナトをぎゅっと抱きしめ直す。
襖の向こうに気配がして――
「……!」
ガラッ。
ゆっくりと襖が開く。
そこに立っていたのは、
あの頃の“ふみ”ではなく、現在の“ふみくん”。
優しい笑顔で、あの声で、こう言った。
「――帰るよ」
***END***



