今日はただのデートじゃない。
今日、告白されなければ、未来は変わってしまう。
それがどんな理屈であっても、ムギにはもうわかっていた。
この日がターニングポイント。
ここで、ふみともう一度つながれなければ、マナトのいる未来には戻れない。
(ふみくん、お願い。今日だけは――)
彼の顔を見るたびに、タイミングを探してしまう。
手を握ってほしい。
何か、好きだって気持ちを伝えてほしい。
ふたりの間に、きっかけがほしくて、ムギは笑ったり、沈黙したり、焦ったり。
そして、帰り道。
車の中、家の近くの見慣れた景色になってきた。
もう、本当にタイムリミットだ。
ムギは勇気を出して言った。
「ねぇ、ふみくん……」
でも――
「待って」
ふみが、ムギの言葉をそっと遮った。
驚いたように彼を見ると、ふみはまっすぐ前を見たまま、口を開いた。
「ムギが何を言おうとしたか、なんとなくわかる。でも、今日は俺に言わせてよ」
ムギの心臓が、ぐっと跳ねた。
車は家とは違う方向にウインカーをだす。
到着したのは
夜景が見える展望台。
かつて、ムギがふみに告白された場所。
「大好きなんだ、ムギ」
短くて、まっすぐなその言葉。
ふみはふっと笑ってから、静かに続ける。
「特別なことをしなくても、ムギがそばにいるだけで、気持ちが落ち着く。
……でも同時に、そばにいないと、すごく不安になる。
たぶん、それが本気なんだと思う」
「ムギのこと、大切にしたいって思ってる。ずっと一緒にいよう」
それは、10年前と同じ言葉だった。
でも、10年前と違っていたのは――
ムギの目から、涙があふれていたこと。
「……うん、ありがとう、ふみくん」
ふたりは手を握り合い、もう言葉はいらなかった。
その夜、ムギは泣き疲れて、ふみの腕の中で眠りについた。
そして――。



