「来週の土曜、空いてる?ドライブ行かない?」
ふみくんからのメールに、
ムギは携帯を持ったまま飛び跳ねた。
(きた……!!)
映画デートに水族館。
あれから何度かふみとは
二人で出かけている。
けど、この土曜日。この日は
――過去にふみがムギに告白してくれた日。
ムギの記憶が確かなら、ここが分岐点だった。
この日に、ふみと付き合えれば……
未来が、変わらないかもしれない。
(マナト……ママ、がんばるから)
ムギは何度も、鏡の前で告白された時の顔をシミュレーションした。
笑う練習もしたし、泣いちゃった時の対処法も完璧。
心の準備は、万端だった。
⸻
そして――運命の土曜日。
空は抜けるような青で、風も心地いい。
ふみくんの運転する車の助手席で、
ムギはテンションを上げながら景色を眺めた。
「ねぇねぇ、あの山の上に神社あるんだって!登ってみる?」
「え、いきなり登山?」
「違うよ〜ちょっとした階段だってば!ほら、そういうとこってさ、願い事叶うとか、あるじゃん」
(ほら、今だよ!ここで告白しよ!?)
だけどふみくんは「そういうの信じるタイプだっけ?」と笑うだけ。
(ちがう……ちがうよふみくん、そうじゃない……!)
⸻
ランチの時も、
「ここの景色、最高だね。今日が思い出になるといいな〜」
って言ってみたけど、ふみくんは「うん、たぶんなるよ」とにこやかに返すだけ。
(どうして……!?)
心の中が、ぐるぐるしてくる。
だって今日は、今日だけは――特別な日なんだよ。
(ふみくんは知らないかもしれないけど、
私たち、今日結ばれないとダメなんだよ!?)
でも、ふみくんの口からは、肝心な一言が出てこない。
夜が近づく。
夕焼けが、空をゆっくりオレンジに染めていく。
(やばい、あとちょっとで日付が変わっちゃう……)
焦りが、喉の奥でつかえてくる。



