校舎の窓から差し込む夕陽が、
昇降口の床に長く影を落としていた。
ひとり、ベンチに腰かけていたふみは、
飲みかけのペットボトルを手に、ぼんやりと空を見上げていた。
「……俺、そんなにずるかったのか」
誰にも届かない、苦笑まじりの独り言。
ムギには「ずるい」って言われた。
ミホにも「ずるい」って言われた。
口調も温度も全然違うのに、
不思議と、同じ言葉が突き刺さって離れない。
(どう返事してほしくて言ってる?
その言い方、ずるくない?――)
(ふみくんって、人に“答え”を求めさせるの、上手だよね――)
自分では、そんなつもりなかった。
でも、そういう「つもりじゃない」が、
誰かを傷つけてたんだと思い知る。
「……結局、俺が決めてないからか」
言葉にすると、やっと腑に落ちた。
ムギといると、あったかくて、楽しくて、
でも一歩踏み出すと、なにか壊れてしまいそうで、怖かった。
だから、曖昧にしていた。
傷つけたくなかった、って言えば聞こえはいいけど――
「……逃げてただけじゃん、俺」
ふみはゆっくり立ち上がる。
窓の外では、部活帰りの生徒たちの声が、にぎやかに響いている。
「ミホ、ごめん」
「ムギ……ありがとう」
誰にも届かない小さな声で、ふみはつぶやく。
そのあと、静かに拳を握りしめる。
「よし」
背筋が、まっすぐ伸びた。
心のどこかで逃げ道を探してた自分に、
ようやくさよならできた気がした。
「次会ったら……ちゃんと、言おう」
夕陽に照らされながら、ふみは歩き出す。
まっすぐ、どこかに向かって。



