放課後の廊下、
チャイムが鳴ってしばらく経って、
すれ違いざまにミホがふみに声をかけた。
「ねえ、ふみくん。ちょっとだけ、いい?」
ふみは立ち止まり、頷く。
このところ、ミホの顔を見るたびに
「また何か言われるかも」っていう緊張が走る。
案の定、今日もそのときだった。
ふたり並んで、人気のない非常階段の踊り場に腰を下ろす。
ミホは、カバンから水筒を取り出しながら、ぽつりと。
「……ふみくんって、やっぱりずるいよね」
ふみはびくっとして、思わず顔を見る。
「……何が?」
「なにが、って顔。たぶん、自分ではそんなつもりないんだと思う。でも、そういうとこ」
「……」
「私ね、ふみくんと映画行けるって、嬉しかったよ。たとえ4人でも、たとえムギちゃんがいても。
でもさ。たぶんふみくん、自分で気づいてないかもだけど……あの日、ふみくんの“目”は、ムギちゃんの方にしか向いてなかった」
ミホの目は、ふみの顔をまっすぐ見つめている。
「たとえばさ、4人でいるのが“平等”だと思ってたとしても……気持ちは全然平等じゃないの、バレてるんだよ?」
ふみは、ぐっと言葉を詰まらせた。
「ふみくんって、人に“答え”を求めさせるの、上手だよね。
どうしたい?って顔して、何も言わずに見つめて、
こっちに選ばせるくせに、
でも、自分では責任を取らない」
それは、突き放すような言葉だった。
でも、ミホの口調は静かで優しかった。
「きっと、ムギちゃんもそう。自分から答えを出したように見せてるけど、本当は、ふみくんの反応を見て決めてる。
でもさ、そうやって“人の気持ちの中に留まる”のって、ずるいよ」
ふみは目をそらし、低く、呟く。
「……そんなつもり、なかった」
ミホは小さく笑った。
「でしょ。でも、そういうとこも含めて、
やっぱり……私、ふみくんのこと、好きだったよ」
ふみが思わず顔を上げると、
ミホはスッと立ち上がって、スカートを軽く払った。
「でも、もうやめる。私が傷つくの、やめるね」
それだけ言って、ミホはふみの隣を通り過ぎて、
踊り場をあとにした。
あとに残されたふみの肩が、夕暮れに少しだけ沈んで見えた。



