商店街の本屋の前。
ふみが自転車を停めて鍵をかけようとしていたときだった。
「……あっ!」
声をかけたのはムギだった。
スカートのすそを揺らしながら、急ぎ足で近づいてくる。
「ふみくん? えー、まじ偶然すぎん!? ここで会うなんて運命じゃん」
「え、ムギ? うわ、ほんと偶然」
ふみは思わず笑った。
心の奥でちょっとだけ期待していたような偶然。
だけど言葉にはしない。
「このあとどこか行く? っていうか、さっきメールしたチケットのやつだけど──」
そのときだった。
「──ふみ!!」
後方から走ってくる声。
高尾が、小走りでふたりのもとにやってきた。
「さっきの話の続きなんだけど──」
言いながら、ふみの隣に立った彼は、ムギに気づいて、ぴたりと動きを止めた。
「あ……」
ムギも、高尾も、一瞬の沈黙。
空気が凍るような、でも誰も言葉を発しない、そんな間が流れる。
「……やだなー。あ、そっか……会う約束してたんだ」
高尾が笑った。
けれどその笑みは、口元だけのものだった。
「悪い、ごめん。ふみ、さっきの話、忘れてくれていいから。気にしないで」
そして、背中を向けた。
「じゃ、バイト戻るわ」
ムギは何か言いかけた。
でもその背中が、あまりにも静かで、何も言えなくなる。
ふみが、一歩だけその背中に手を伸ばしかけたけれど──
高尾は、振り向かなかった。



