ムギの手が、自分の手から離れていく。
その感触は、思った以上に、冷たかった。
「ごめん!昔のクセで!映画の余韻かな!」
そう言って笑った自分の声は、あまりにも軽すぎて、
自分の胸の奥に沈んでいく痛みとは、まったく釣り合ってなかった。
(……ああ、ほんとに、もう無理なんだな)
笑ってみせても、ムギの表情はこわばったままだった。
家に帰ってシャワーを浴びたあと、ベッドに寝転がって、携帯を胸の上に置いた。
通知はない。ムギからも、ふみからも。
ふと、思い出す。
付き合ってた頃、ムギは映画のあとの帰り道、よく手をつないできた。
指先をちょっと動かすと、それにすぐ反応して笑った。
そのときのムギの手は、あたたかくて、ちゃんと自分を選んでくれてた。
今夜のあの手は、もう、自分のものじゃない。
「……終わってるの、知ってたけどな」
自分に言い聞かせるように、ぽつりと言ってから、
スマホの電源を落とした。



