「チケット、私とっておくね!」
ムギは携帯を手に、うきうきした気持ちを押し隠しながらふみにメールを送った。
ムギがチケット予約サイトを開いていると、背後から高尾がのぞき込んでくる。
「席、どこにする?」
笑顔で、だけど食い込むように強引に。
ムギは「あ……」と戸惑いながら、つい2-2の前後席。
ムギと高尾、ふみとミホ。
目の前と、少し後ろ。
⸻映画当日
映画の暗がりの中、ふとムギが後ろを振り返ると、
ふみがこっちを見ていた。
一瞬、目が合った。
ふみは、何か言いたげに視線を落とす。
そのとき——
「ねえ、これ、今日の映画ってさ、最初のシーンがめっちゃ大事なんだよ。覚えてる?」
高尾が、わざとらしくムギの耳元に顔を寄せた。
その息遣いすら感じる距離。
ムギが驚いて身を引くと、今度は、彼女のジュースを勝手に一口。
「……なにやってんの?」
ムギは小さくため息をつく。
でも、それ以上何も言えない。
後ろで、ふみの視線がまた痛いくらいに感じられていた。
⸻
映画が終わり、4人で街を歩いていた帰り道。
「……」
なんとなく無言が続くなか、ふいに高尾がムギの手をつかむ。
繋いだというより、握った。
「……っ」
ムギは、とっさに手を振り払った。
ふみとミホが、同時にムギを見た。
空気が、数秒だけ凍りつく。
高尾がすぐにおどけた声で言った。
「ごめーん!クセ!クセクセ!……昔、よく手ぇつないでたからさ!映画の余韻だわ〜、ほんとついつい!」
冗談っぽく笑ったけど、その笑顔の奥は、明らかに何かを隠していた。
ふみは何も言えず、ただムギをちらりと見た。
ムギは、ただうつむいて靴の先を見つめた。
そのとき、ミホが静かに言った。
「……ふみくん、もうそろそろ気づいたほうがいいよ。」
「え?」
「4人でって、そろそろ限界だよ。今日、あの手を見て、私でもわかった。」
ふみは戸惑った表情のまま、ミホの顔を見た。
ミホは少しだけ眉を寄せて、でもまっすぐに言った。
「自分のせいだって、わかってる?」



